亘

マンチェスター・バイ・ザ・シーの亘のレビュー・感想・評価

4.4
【悲しみと共に生きていく】
ボストン近郊。便利屋として働くリーの元に兄ジョーの訃報が入り、故郷マンチェスターバイザシーへ戻る。遺言により彼は甥っ子パトリックの後見人になるが気が進まない。そのまま2人は共に暮らし始める。

リーは不器用で乱暴者。人に気持ちを伝えるのが苦手だけど酒が入ると暴力をふるってしまう。妻とは別れているし孤独に暮らしていた。パトリックは小さい頃からよく知っているし、叔父・甥っ子として関係は悪くない。でもリーはパトリックの要望を聞かずに引っ越しの準備を進めようとしたりして衝突するし、一緒に暮しながらも会話が多いわけでもないし、関係はすごく良好というわけでもないよう。果てにはジョーを埋葬するまで冷凍保存しようとリーが言い出しパトリックと対立。傍から見ればリーは取っつきにくいし、人の心があるのかも疑問に思われるかもしれない。しかし次第にリーには忘れられない重い過去があるのが明らかになる。

リーはかつて自分の不注意で、元妻との間の子を失ってしまった。リーが暖炉にスクリーンをかけ忘れたことで家が火災になってしまったのだ。不器用ながらリーはパトリックのことを想っていて、もしかしたら自分の子と重ねて罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。とはいえ全くその記憶が薄れることはない。子がいなくなりその後子がいなくなり、彼が現在孤独なのもそれが原因といえるのかもしれない。

パトリックがどこに暮らすか、ジョーの遺体の扱いをどうするかで2人は対立する。その結果パトリックは、ジョーとの生活より自分の母親との生活に心が動く。でもそこで待っていたのは慣れない少しハイクラスな生活だった。結局パトリックにとってはジョーとの生活の方が合っていたのだ。一方のリーは元妻と遭遇する。彼女もまた過去の事件を忘れていなくてその点でリーと同じだった。彼らはそれぞれ過去と遭遇したと言える。これこそ2人が歩み寄るきっかけになったと思う。

終盤リーは、パトリックがマンチェスター・バイ・ザ・シーに残れるよう手配する。これはパトリックや過去から決別したのかというとそういうわけではないと思う。彼は過去を受け入れることにしたのだ。リーはパトリックに船のエンジンを買い与え一緒に釣りをする。船はジョーの形見と言えるし、釣りは過去とおなじイベント。そしてソースを焦がした時には臭いで過去の火災を思い出す。ジョーの記憶は故人を思い出す点で辛いだろうし火災の記憶は最も忌々しいもの。それでもかつてとは違ってリーは辛い記憶も受け入れる。2人が釣りを楽しむラストシーンはリーたちが前向きに生きていく予感を見せた。

印象に残ったシーン:火災を回想するシーン。リーが元妻と遭遇するシーン。リーとパトリックが釣りをするラストシーン。

余談
撮影はマサチューセッツ州マンチェスター・バイ・ザ・シーで行われたそうです。
亘