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イレブン・ミニッツの3104のレビュー・感想・評価

イレブン・ミニッツ(2015年製作の映画)
3.8
ポーランド、ワルシャワ。午後5時。
女好きの映画監督。面接を受ける女優。嫉妬深いその夫。ホットドッグを売る男。バイク便の男。救急隊員。仕事中に情事に耽る男とその女。強盗を企む少年。橋の下の画家。別れた男から犬を譲り受けた女性。犬。
それぞれの人物の身に起きた、17:00から17:11までの「11分間」が描かれる。イエジー・スコリモフスキ最新作。

嫉妬深い夫が通りを往く様子を捉えた次は、その脇にいたホットドッグを売る男の側からのシーン・・というように、時系列をシャッフルし、各登場人物毎のいくつもの視点が繋ぎ合わさっている。このような構成の作品はそれこそ過去にいくつもあり、それ自体は珍しいものではない。しかし今作はそのシャッフルされたひとつひとつのピースが小さく、かつ~観客が混乱して話を追うのを投げ出してしまわない程度に整理され~複雑に多層的に絡み合っているのが特徴だ。
短くたたみかけられるが故にダレるところがなく、また登場人物達の背景描写や周辺情報も最小限でときにまったく説明しないので、観る側はこれからどうなるのか?この人物は何者なのかなどと考え思いを巡らせながら、物語の奥のほうまで“連れていかれる”ことになる。

(これよりネタバレ気味)


“連れていかれた”果てはどうなるのか?
最後まで辿りついてみると、物語的な~ときに仰々しい~カタルシスは正直乏しくそして薄い。いや「ない」とまで言ってしまおう。
思想的な問題提起もなく、大詰めの大詰めになって箱をバタバタと開ける(いや閉めるか)様子に、呆気にとられる人も多いのではないかと思う。
どうだ!という作り手側のドヤ顔が良くも悪くも見えない代わり、その分「神の視点」のようなものを想起してしまう(劇中そしてラストの監視カメラの映像などはその確たるメタファーなのか)。

物足りないという向きもあるだろうが、10人以上もの群像劇が織りなすパッチワークと、その後ろに確信犯的に横たわる街の音響~時計の鐘、乗り物の音、街頭の演奏、低く飛ぶ飛行機の爆音~、そして不気味に差し込まれるモチーフ~割れるシャボン玉、窓から飛び込んでくる白い鳩、幾人かが空に見た“何か”、遡上してゆく何かの液体、「お前はもう何も改めることができない」という声・・等の要素に絡め取られ、短い上映時間ながらもすっかり映画に没入してしまった。技術的にもWEBカメラやiPhoneの動画など様々な手段を使い、ときに「犬の視点」までも盛り込んでくる~ちなみに犬のブフォンは監督の飼い犬らしい~その姿勢や素晴らしい。

なにより御年78のスコリモフスキが、これほどまでにパワフルで熱を持ち、尖った作品を突き付けてきた事に、驚きつつも称賛を送りたい。

ちなみに11分間という以外にも、作中には「11」という数字がいくつも顔を覗かせる。約11人の人物、ホテルの1111号室、バイクのナンバーに含まれる11という数字、そして舞台となっているのが11月7日(ちなみにホットドッグの世界記録、203.8mは海里になおすと約0.11・・これは穿ちすぎか)・・。
なぜ「11」なのか。深い意味はないのかもしれないが(誰だ9.11とか言っているのは?それこそ穿ちの極北じゃないのか?)、監督はインタビューで「11はグラフィカルで美しい数字」とも答えている。確かに10だとキリのいいラウンドナンバーだし美しくないよなぁ。
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