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パーソナル・ショッパーのemilyのレビュー・感想・評価

パーソナル・ショッパー(2016年製作の映画)
4.0
 セレブ達の代わりに洋服やアクセサリーを買い付ける”パーソナル・ショッパー”として働くモウリーンだが、自身は霊媒師であり、双子の兄を最近亡くし、彼の声をサインを待っている。そんな頃携帯電話に知らない人からメッセージが届くようになり、彼女の行動をすべて把握しており、彼女の別人になりたい気持ちを裸にしていく・・・

 パーソナル・ショッパーとして働いておりいるモウリーン演じるのは「トワイライト」シリーズでおなじみのクリステン・スチュワート。シャネルやカルティエなどのハイブランドの洋服やアクセサリー、セレブの住む豪華なマンションの一室など同じようにショッピングをしている気分が味わえる。しかしモウリーンはバイクに乗り、どちらかと言うと中世的な井出達でセレブとは程遠い。ハイブランドの品々をバイクで運ぶ違和感から、閉鎖的なカメラワーク、何もないところにふと映る見えない物、幻想と現実の隙間を縫うように観客を翻弄し、徐々に徐々にボルテージを上げていく。前半のゆっくりと流れる空気では、開いた扉の先に何かをほのめかし、核心に迫る訳ではなく、ゆっくりと隙間を埋め、気が付いたらどっぷりと作品に魅了され目が離せなくなっている。クリステン・スチュワートのオールバックでボーイッシュな井出達もどこかミステリアスで、別の自分になりたいという誰しもが持つ欲求を操り、Iラインを強調したきらびやかなドレスを身にまとった彼女のギャップにまた目を奪われる。

 華やかな世界とオカルト的心霊が交差する。全く融合しない物が見事な別世界を作り出し、じんわりと迫るカメラワークとストーリー展開により、サスペンスから殺人事件へと発展し、見えない相手からのメッセージのやりとりがさらに別の自分を引出していくが、すべては現実なのか幻想なのかわからないまま幕を閉じていく。

 しかし亡くなった兄の存在は彼女が気が付かないところでちゃんと見守ってくれている。観客にはその見えない存在がしっかり見えているが、彼女はそれに気が付くことはない。兄のサインを探し求め、その強い思いから生霊を作ってしまったのかもしれない。すべては自分自身が生み出した物であり、またそれを求める事で兄は成仏できていなかったのかもしれない。

 交わらない物が少しずつ交わり、心理の隙間を縫うように、不穏な空気感で全身を包み込まれるように、世界観にのめりこむ。淡々とした中に常に何かを漂わせ、それは暖かで悲しく、彼女の繊細な表情と交差していくのだ。求めれば求めるほど見失ってしまう、思いが強ければ強いほど肝心な物が見えなくなってしまう。亡くなった人を求め悲しむ事は、自身も故人も閉じ込めてしまう結果になる。
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