めしいらず

愛を綴る女のめしいらずのレビュー・感想・評価

愛を綴る女(2016年製作の映画)
3.5
自分が愛した男から同じだけの深さで愛されたい。女は朴訥な田舎者の夫より、都会的で知的な男を求めて止まぬ。彼女の理想への妄執は異様な剣幕を感じさせる。彼女は夫に「あなたを絶対に愛さない」と宣言さえする。最初から冷え切った夫婦生活。そんな折、療養先で女が出会った重篤患者の男。彼が奏でていたチャイコフスキーのピアノ曲の調べ。その指先の動作が彼女の視線を搦め捕ってしまう。急速に距離を縮め念願叶ってついに愛し合った直後の皮肉な別離。離れた途端に約束を違えて手紙の返事はこない。でもお腹には子どもを宿す。そして夫と息子との日々。彼女は「わたしは不幸じゃないわ」と言うけれど、幸福だとは決して言わない。息子に無理強いするピアノ。時が過ぎ、成長した息子のコンクールの日に彼女は知る。男のその後のこと。療養所であの日にあった真実。彼女のあまりに気狂いじみていた妄執。送り続けた手紙の行方。全てを判って受け止めた夫の深い深い愛情。それなのに彼の心をどれほど踏みにじり続けていたか。永く時間がかかったけれど女はようやく夫に歩み寄る。そして初めてちゃんと彼の妻になった。
この主人公の求めた愛の形は、遍く女性が心底で求めているありようなのではないだろうかと想像する。一方でこの夫が示した度量の大きさは遍く男が目指したいところではある。しかしこの扱い方はあんまりじゃないかね。ニュアンスは違うけれど「逢びき」を彷彿とさせる。あちらが赦しなら、こちらは労りとでも言おうか。
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