千年女優

セールスマンの千年女優のレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
4.0
高校で教鞭を振るう傍ら妻ラナと演劇に勤しむ劇団俳優で、主演を務めるアーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』の準備を進めるエマッド。住宅の欠陥が発覚したために俳優仲間に紹介されたアパートに移り住んだ夫妻が、引っ越して間もなくラナが何者かに襲われる事件に見舞われて動揺の中で日々を過ごす様を描いたドラマ映画です。

人が生きる中で抱く複雑な感情の機微をサスペンス・スタイルの物語で浮き彫りにするイラン人監督アスガル・ファルハーディーが長年練り続けた構想を映画化した2016年公開の作品で、カンヌ国際映画祭で上映されて称賛を集めると世界の国際映画賞を席捲した2011年の『別離』に続いて二度目となるオスカーの外国語映画賞を受賞しました。

「被害者」と「加害者」という至極シンプルな関係性の中で起こった「事件」を巡る物語のはずが、ファルハーディらしい意地の悪いバランス感覚が方々に発揮されていて、描かれる様々を考えれば考えるほど結論を見失っていきます。決して善悪で線引きできぬ関係性、言葉に表すことのできぬ複雑性こそが人であると表現している一作です。
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