1週間前に妻を亡くした認知症の老人ゼヴ。彼は同じ老人ホームの友人マックスから手紙を受け取る。
手紙に指示されるまま老人ホームを抜け出し、旅に出るゼヴ。
その行き先は、目的は一体何か。
終始静かな、ともすればやや冷たいトーンで展開する異色のサスペンス風ロードムービー。
ゼヴの人懐っこい風貌と、その手が奏でる美しいピアノの旋律に観客は次第に彼に感情移入し、旅の目的である『復讐』を応援し始めるが、実はそれこそがこの映画の最大の罠であった。
衝撃の事実が明らかになるラストは頭から氷水を浴びせられたようで、言葉を失う。
主要登場人物が老人ばかりという独特の雰囲気を持つ映画だが、バス旅の美しい風景や、旅先で出会う人々とゼヴの交流など、サスペンス抜きでも非常に魅力的な要素が多い。
だからこそのラストの衝撃だが、まずは先入観なしにゆったりと流れる時間に浸ってほしい。静かな傑作である。