るる

シュガー・ラッシュ:オンラインのるるのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

相変わらず、メタファー、ミーニングの重ね方、パロディと皮肉がすげえなピクサー、と苦笑しつつ、

ディズニーと合流したピクサーが、ようやく女の子のための物語を作ってくれたな、ようやく会社としてミックスされたな、これからどうなるんだろうなと思った。
ジョン・ラセターのセクハラ告発・解雇後にこういうのが見れたのは良かったというか、ちょっとだけ安心できたというか、なにかから解放された印象。でも、スッキリはしない。

なんというか、2001年にドリームワークスに『シュレック』をやられてしまったことは、未だにディズニー&ピクサーにとって痛手なんじゃないかと思っていて、どれだけ作品内で自己言及を重ねても、セルフパロディしてみせても、『シュレック』には勝てなくない? と思っていたのだけれど、

ようやく、近い地平に立った感じがしたんだよな。ディズニーのプリンセスものに関しては、ここがゼロ地点、って感じがした。感覚的な言い方になるけれど。

字幕版の、あの、少女らしくない、ガラガラ声のヴェネロペであることに意味があると思った。声が美しくなくても、歌が上手くなくても、自分がプリンセスだと思うなら歌うんだな、ディズニー・ユニバースに存在する以上は。

容姿が醜いプリンセスを肯定的に描いた『シュレック』に対して、ディズニーがクリアすべき課題は、こんなところにもあったんだな、と気付いて、なんだか腑に落ちた。

今回、マーケティング重視の日本語吹替版によって、取りこぼされたモノは実はけっこうデカイんじゃないかと思う。今後、のちのち効いてくる気がする。

日本は女性に対して可愛くて幼くて高い声を求めがち問題、日本の女性声優や女性歌手の独特な声について、アニメ大国からVtuber大国に移行しようとする今だからこそ、そろそろしっかり批判され批評されるべきじゃないかと思う。無自覚は良くないと思うんだよな。。

プリンセスの部屋、価値観といい、メタネタを使う手法といい、現代的で良かったよ。これで禊は済んだとは思わないけれど、ようやくこの境地に到達したと感じた。
クラシックなプリンセスのファンはブチ切れるんじゃないかと思ったけど、キレさせておけよとも思った。同時に、自分の思い出が時代の流れとともに木っ端微塵に粉砕される覚悟も決めた。どんと来やがれ。

あのTシャツ、きっと商品化するんだろうな。戦うプリンセス、『キングダムハーツ』もいずれ映画化されるんだろうな。

どこまでも、しょせん、商業主義、と思うと、乾いた笑いが漏れるけれども、まあ、うまくやってるんじゃないだろうか。そのぶん、もう絶対に戻ることができない境地、巻き戻すことができない時間、価値観というのもできてしまったように思うけど。

『くるみ割り人形の秘密の王国』には物語の構成上、ロマンスが必要だったろうと思うけれど、いま、プリンセスにロマンスをさせては時代に逆行、後戻りした印象になるから避けたのだろうと思う。描き方の問題なのにな。男女の友情を描くにしても一苦労してるわけでな。打ち破るべき部分はまだまだあると思う。

『インサイド・ヘッド』の、女の子の頭の中に土足で踏み込む感じ、娘を過剰にコントロールしたい父の気持ちが透けて見えて、結構、かなり引いたので、

今作は子離れ父離れの話として見ることができたのも良かった。もちろん友達の話、もしくは夫婦の話としても見ることができるんだけど。「ふたりは意外と子育てがうまかった」という台詞を放り込んできたり、いやすごい。上手い。

「ネットの鉄則、コメント欄は見ちゃダメ」教育として正しい、そして、ディズニーのネットに対するスタンスってそんな感じなのね、と納得したところだったので、
ラルフのクローンを通して、ネットで何かに執着して粘着する人間の心を、つまり、オマエら、友達が欲しいんだろ? とまとめる豪腕に苦笑。まあ、そうなんだろうな?

ラルフに人妻ものエロサイトを勧める広告が唐突に現れて、ギョッとする感じ、まさにネットだと思ったし、

マッドマックスFRのパロディやその他セリフの節々にフェミニストへのアピールを感じて、なんだかなあとは思ったけれども、シャンクは文句なしにカッッコよかったし、シスターフッドの描写も良かった。

ディズニープリンセスよりピクサーが好きで"ボーイッシュ"と言われがちな女の子に向けたプリンセス・ストーリーとして、最高だなと思ったよ。

あの汚ねえ花火ったら。笑っちゃったわ。

直前に見た『くるみ割り人形の秘密の王国』と比較しながら見たこともあって、うん、面白かった。

しかし、ラルフの結末にはなんとも切なくなったので、次作に期待したい。友達やパートナーに執着しすぎずに、ひとりで楽しめるような趣味を持ちましょう、自立しましょう、というメッセージはこの上なく正しく、現代的だと思うんだけど、中年の危機を迎えた男性がどうあるべきか、どんな夢を持つべきか…改めて示されて欲しいなと思う。

次はきっと、アーケードゲームがオンラインに移植されることになって…という展開だろうと思うんだけれど、どう描くのか。邦題がどうなるのかも含めて、注目したい。

つれづれ。

2019.1.31.追記
これ、金も学もなく、友達だけがいる中年男が、友達すらも失いそうになる話として見ると、結末にはやっぱりチョット納得いかないんだよな、ドエトエフスキーの『罪と罰』を背伸びしながら読む、新しい趣味を見つけたラルフが、あんまり楽しそうに見えなくて…
ブッククラブ自体は素晴らしいと思うし、新しい世界を広げるにはぴったりな、推奨されるべき趣味だとは思うけど、ちゃんと楽しんでる姿を見せてほしかったんだよな、もうちょっと自分に合った趣味を見つけたらいいのに、と思っちゃったし、そもそも金がない人間は本を買う金がないし、この映画を見ることもない…という現実にぶち当たってしまったような。

とはいえ、意外とインテリなザンギエフを見せてくれたのは嬉しかった。知的な筋肉。カッコいいよね。と思った。新しいヒーローだ。

2019.2.2.追記
ここがゼロ地点、とはいえ、ガラスの靴をシンボル化したのはディズニーだと思うので、ガラスの靴を叩き割るシンデレラを描くならもっと丁寧にやってくれ、シンデレラを主人公にして、割るか、割らないか、葛藤させて、選択をさせてくれ、というならわかる。むしろ実写版はそうあるべきだったのでは? 現代では他の価値観もある、しかし、私はこの道を選ぶ女だ、という描き方をこそすべきだったのでは? とハタと思った。プリンセスたちを、主人公たちを取り巻く背景として描くにしては、雑だったなと思う。な。
るる

るる