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安城家の舞踏會のBaadのレビュー・感想・評価

安城家の舞踏會(1947年製作の映画)
3.7
貴族の没落、のみでなく、明治~昭和にかけて成り上がった身近な新興ブルジョアや地主階級の皆様の没落の有様を、ようやく食料事情だけは改善して少しだけ生活に潤いが出て来た庶民が映画館で見て楽しみ、新しい時代の希望を喜ぶというカラクリの映画でしょう。

華族制度の廃止と同じ年の映画、ということですが、農地解放も同じ年の政策の様です。映画の内容的にも、実際に意識して作っているのは農地解放のほうで、極論すれば農地解放を合理化するプロパガンダ映画の傑作とも言えそうです。

それなりにキャスティングも豪華で、情緒に訴える演出もあり、当時解禁されたハリウッド映画のパクリもちらほらなので、クラッシック映画好きには楽しい作品。
実際に良い所の出身であったという森雅之さん、どういう思いで演じていらっしゃったのか。でも、一番陰影を感じさせる役。やはり見事です。

何年か前、高槻の日本映画専門の名画座で見ました。「森雅之」特集という事で、ファンのおばあさまやおじいさまがたで満員でした。成瀬の『浮雲』との併映でしたが、『浮雲』では静まり返って緊張感に満ちていた館内も、この映画の時はざわざわしていて、まるで茶の間でくつろぐかのように、当時の昔話やら撮影秘話をタイミングよく静かな声で話す方がいたりして、ああ、全盛期の映画って、こういう風に鑑賞されていたんだな、とちょっと納得したものです。

隣の席の森さんのファンというおばあさまが「若いのに(当方とっくに中年)こんな映画を見にくるなんて関心ね。」と声をかけてくださって、森さんが役者としてどんなに素敵だったかとか、少し教えてくださいました。

というわけで、大まじめに肩肘張ってみる映画ではありません。適度に距離を置きつつ、楽しんでみるのが正解でしょう。

どう転んでも華族には見えないブルジョワのしっかり者の長女風の原節子さんの言葉遣いがご愛嬌でした。

(よく出来たプロパガンダ映画 2012/2/11記 修正済)
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