Masato

あゝ、荒野 前篇のMasatoのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
4.7
傷だらけの人たち

前編157分、後編147分という超大ボリュームな本作。今年の邦画だと1番かもしれない。
前後編に分ける映画で、前編がある程度完結するタイプ(ちはやふる)と完全に途中で終わるタイプの映画があるが、本作は後者のタイプ。だから、前編だけではまだストーリーが散漫としているので、正しい判断ができないから、前編だけで掴みとれたところだけを書いてみる。
評価は暫定。

上映時間157分という見に行くのに勇気がいるような長尺だが、あっという間に終わってしまう。それにはいくつか理由がある。
まず、2021年の新宿という舞台の世界観。本作の新宿はどこか寂れているように思える。人々が鬱屈にまみれていて、いまにも爆発してしまいそうな街に見えてしまう。風景は今の新宿と変わらないが、この新宿は今の新宿から廃れているように思えるこの世界観の描き方は素晴らしい。とても魅了される。

そして、現代社会の問題をこの映画の一本にかなりの密度で集約しているのも魅力。
徴兵、介護、在日関係、テロ、デモ、震災…荒廃した世界に見えるのは、現代社会の問題をこれでもかと詰め込んでいるからなのかもしれない。

前編のストーリーとしては新次と二木健二(バリカン)のボクサーになる物語があって、それと同時に2人の周囲の人たちを描いている。まさに現代版ロッキーとも言えよう。詐欺師だった新次が更生してボクサーになろうとするところはさながらイタリアの種馬だ。いや、ウォリアーにも似ている。野獣のように暴れる新次と臆病になるバリカンの凸凹コンビは面白いが、そのスタイルには過去のトラウマが関係しているというのも感動してしまう。
思えば、出てくる人みんなが傷だらけ。過去に深い傷を負って生活している。死にたくなる時もある。けれども、必死にしがみついて生きていくしかない。荒野のような糞溜めの世界と人生であろうとも、生きていくしかない。
自殺とボクシングが並行して描かれていく。これは、生きることをやめようとしている人たちと生きて希望を見つけようとする男たちが描かれるということになる。どっちが勇ましく見えるだろうか?
人間の心・魂に訴えかける映画です。理屈はいらない。ただ感じるだけで良い。彼らが罵声と怒号と(合法的に)人を傷つけることによってどん底から生きる意味を見出していくところを。

後編でこの物語がどうなっていくのかが楽しみ。

菅田将暉は仮面ライダーWをやっていた頃がもう見えてこないほどの怪演。全裸でヤリまくり。野獣のような演技が素晴らしい。マンガ実写映画をやる人とは思えない。
「息もできない」のヤンイクチュンはまだ眠れる獅子といったところか。後編になると爆発した演技になりそうなきがする。楽しみだ。
他にも、ユースケサンタマリアやでんでんやらキャストの演技が素晴らしい。

商業主義なんてもっぱら御免な最高の映画だった。
Masato

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