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あゝ、荒野 前篇のemilyのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
4.0
 2021年の新宿。出所したばかりのシンジは、兄貴分を半身不随にした元仲間のユウジに復讐心を燃やしていた。一方理容室で働くケンジは吃音で対人恐怖症。互いに過去のトラウマなども抱え、行き場のない心をボクシングに捧げることにする。自分をさらけ出していくユウジはメキメキ強くなっていくが、ケンジは恐怖心と性格が邪魔をし、さらに違う感情も芽生えてきて・・

 2021年の新宿。今と何の変わりもない街にありながら、しっかり近未来を感じさせる。爆発音を聞きながら何の躊躇もなくラーメンを食べるシンジ。それぞれの過去、それぞれの苦悩が新宿の眩いネオンと交差させ描かれる。広い世界のようでそれぞれがどこかで繋がってる濃密な人間関係、暴力とセックスが激しく交差する前半で現状の心のモヤモヤややり場のない葛藤をしっかり浮き彫りにする。喧嘩がスポーツになり、ボクシングを始めてからは二人の成長、二人の瑞々しい時間、新宿の街を走り体力づくりをしながら、ひと時の心の平穏を感じさせる。吃音のケンジを演じるヤン・イクチュンの言葉にならない思い、葛藤が繊細に交わり、言葉にならない涙や笑い声でしっかり彼の心情を見せてくれる。

 ボクシングシーンも迫力があるが、関わる人間模様がしっかり描かれており、しっかりと物語が流れていく。生きるために体を張って闘うケンジとシンジの瑞々しい成長物語を見せる中で、交差する自殺予防サークル。自殺者がどんどん増え、死にたいと思っている予備軍がたくさんいる近未来。生と死を違うアプローチで見せ、二つの物語は確実に結びついている。横にそれるようですべてのエピソードが繋がっており、繰り広げられるドラマの登場人物がどんどん繋がっていく。しかし全く嫌味がなく自然な流れで行われ、先の読めないストーリーの中に見事に心情が溶け込んでいく。後編はまだみていない。ただ予告だけで涙が出た。さらに濃厚な物語になってるみたいで、楽しみです。
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