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Worried About the Boy(原題)のGreenTのレビュー・感想・評価

Worried About the Boy(原題)(2010年製作の映画)
5.0
伝記映画は、事実と異なるのは承知の上で、私はこの映画好きですね。主人公の「自分は誰からも愛されないかも」って思いが心に刺さる。ダグラス・ブースはそんなボーイ・ジョージを熱演したと思う。

この映画で描かれるのは、ボーイ・ジョージが1982年にカルチャー・クラブでデビューするまでの物語と、1986年に麻薬容疑で逮捕される一日の様子で、交互にフラッシュバックで描かれています。

80年代のイギリスのポップ・カルチャー台頭の背景になっているのは、いつもサッチャリズムによる不況と失業率の急上昇。この映画でも、ジョージがセカンダリー・スクールで先生に、「手に職をつけろ!今道を踏み外したら、もう後で修正は効かない」くらいのことを言われる。

この頃日本は、戦争の傷跡も癒えてバブル前夜だったので、欧米音楽が好きだったくせに私は、全くそう言うことに気がついていなかった。イギリスすげーヤバい、って言うのはなんとなくわかっていたけど、それがパンクやメタルやカルチャー・クラブと関係があるなんて思ってもみなかった。ただのファッションなんだと思ってた。

しかしファッションなんだと思ってた部分に関しては当たらずとも遠からじで、ジョージはファッションが好きで、派手な格好をして遊びに行くのは大好き。でも将来の計画を立てたりはできない。そりゃそうだよね〜。まだやっとティーン後半?今を生きる!って感じだよね。14、5歳でもう手に職つけないとお先真っ暗、なんて社会は憂鬱になる。そういう負のエネルギーがあのムーブメントの源なんだなあ〜ってつくづく思う。

タイトルの ”Worried about the Boy” は、そんな生き方しかできず、その上ゲイであるジョージを両親(特にお父さん)が心配していること、麻薬疑惑が発覚した後は、ファンが心配していることに引っ掛けてあるんだど、ジョージは心配されればされるほど、ありのままの自分でいてはいけないような罪悪感を感じてしまう。

ジョージは実家を出てロンドンに上京し、スクワットと呼ばれるアパートに住み始める。スクワットって全く知らなかったんだけど、どうやら空き家になっているビルに、アーティスト関係の若者たちが勝手に住んでいるところで、ヒッピー時代から存在したらしい。コンサートがあったりすると、その地方のスクワットに泊まったりとか。

前半はジョージのスクワットでパーティしたり、のちにニューロマの聖地となるブリッツ・クラブでのパーティ・シーンばかりで、こういう世界に興味のない人たちは退屈かも。私は、ジョージのスクワット仲間がドレスアップしてブリッツ・クラブに行くところがもう鳥肌が立った。Dawn, Sarah, Mo, Christopher, Marilyn and George って名前が出て、6人がチラシが貼りまくってあるロンドンの裏道を闊歩して、角を曲がったところでうわ〜っとドレスアップした若者がたむろってる。この退廃的な感じがたまらない。

ジョージは明らかにゲイなんだけど、どうもストレートの男ばかりを好きになってしまうらしく、「自分は女になれない」か「自分は女にかなわない」のような気持ちがトラウマになっているようだった。

しかしジョージが好きになるタイプは、ポスト・パンクの、まあ〜ブライアン・セッツァーとか、ビリー・アイドルみたいな男が好きなんだよね〜。私は、ニューロマが特に好きでもなかったけど、やっぱそれ以降の長髪とかヒラヒラの服が好きで、このロカビリー・ラインの男はダサいと思っていたので(今でも)、ボーイ・ジョージがこういうのが好きだったというのは軽く衝撃だった。

ところでボーイ・ジョージってめちゃくちゃケンカが強い。いつもストレートの男に恋をして、男は女と浮気するんだけど、そうすると殴り合いのケンカになって、いつもジョージが勝つ(爆)。バンドメイトのジョン・モスと付き合っている時は、裸で満足げなジョージの隣で、ボコボコにされたジョンが横たわっていたり。

しかしジョージは相当可愛かったらしく、ストレートの男が落ちてしまうのだ。最初の本気の恋だったカーク・ブランドンは、「自分は男と寝ない」と宣言していたのに、ジョージの魅力に負けてしまう。

この時、朝からカークが訪ねてくるのを待ちわびているジョージを演じる、ダグラス・ブースがめちゃくちゃ可愛い。雑誌読んだり、髪を直したり、タバコ吸ったり。で夕方、もう来ないかも、って階段に座ってシュンとしていると、カークがくる。そんで、

「お前は女に見える。I’m a girl って言え」というと、ジョージが、

「I’m a girl… I’m a girl… I’m your girl…」ってつぶやくと、二人はブチュー!!!とキスをする!!

これがね〜!!すごいよ、久々に映画でラブシーンを見て「ピクッ」と来た。

カークの髪を染めてあげたり、ご飯作って待ってたり、振られて泣いたり、ジョージを演じるダグラス・ブースにめっちゃ共感してしまう。こんなティーンの頃の恋愛に心揺さぶられるなんて思わなかった。めちゃくちゃ切ない。

音楽のキャリアに関しては、ブリッツ・クラブでサブカル雑誌のカメラマンが狙っていたのは、ジョージのスクワットの一派だったので、雑誌に載ったり、カークと付き合っていたのは秘密だったけどみんな知っていたようだし、ロンドンでの知名度はあった。しかしイマイチブレークしないので、マルコム・マクラレンに自分を売り込みに行く。

いや〜、この人はイギリスの秋元康みたいな人ですよね。こいつ通さないでイギリスでブレークできないよ!みたいな。マルコムは、もう一個バンド作るのめんどくさいからと、ジョージに「ルーテナント・ラッシュ」という芸名を付けて、無理やりBow Wow Wow という既存のバンドに参加させるが、リード・シンガーのアナべラがジョージを嫌って、はじき出されてしまう。

いたよね〜、Bow Wow Wow !!でも、ボーイ・ジョージがこのバンドに短期間居たっていうのは知らなかった。アナベラ、ググっちゃったけど、確かにこいつ、めちゃくちゃ若かったのに、アルバム・ジャケットで全裸かましてましたよね。本当に80sってすごい時代だったんだなあ。またそれを、全く突っ込んで考えていなかった自分に笑う。というかね、色々思ってはいたんだよね。「これいいのかな〜」とか。でも「多分、誰も何も言わないからいいんだろう」とか、「でも、カッコいいからいいや!」って思ってたんだと思う。

映画では、ボーイ・ジョージが全く音楽的バックグランドがないのに、カルチャー・クラブでいきなりデビュー!みたいに端折られちゃってるんだけど、あの声、あの歌唱力、それはないだろ!と思ったら、ある程度音楽活動はしてたみたいね。でも、本当にバンド活動していただけであのレベルに上がったらしく、やっぱ欧米は層が厚いなあ〜と改めて感心する。

私はカルチャー・クラブはあのポップなイメージがバカすぎて好きじゃなかったんだけど、音楽はすごい好きだった。「カマカマカマカマ」はあまりにヒットしすぎていーかげん嫌いだったけど、 "Church of the Poison Mind" とか、”It’s a Miracle” とかめちゃくちゃカッコいいじゃん!

今PV観ると、カルチャー・クラブは日本好きだったみたいね。映画の中でも、ジョージがイッセイ・ミヤケの服が好きだったりとか、カークに日本のはっぴをプレゼントされてめちゃくちゃ喜んでたりしてたけど、”Miss Me Blind” のPVなんて日本満載!でもまだゲイシャや浮世絵や漢字ってレベル?!「文化倶楽部」って使ってたよな〜そう言えば!「メラメラと燃えている〜」って日本語を使ったり、”The War Song” では「せんそう はんた~い」って日本語で歌ってるし。来日した時、原宿で洋服買いまくって、税金かけられないように全部着て、着膨れしたボーイ・ジョージが税関を通る写真をミュージック・ライフで見た覚えが。

麻薬疑惑後のシーンでは、お父さんが「お前を心配している日本のファンから電話がきた。 “How Boy? How Boy?” って訊いてた」って言ってたけど、誰だよ、ボーイ・ジョージの実家の電話番号知ってた日本人って?!オネエ・クラブの人かなあ?

つまりこれだけ人気者になってもボーイ・ジョージは、ストレートの男を好きになってしまうことで「自分は愛されない存在なんだ」としか思えないところが切なかった。曲の歌詞でも、自分の心を素直に表現すると、ゲイであることがバレてしまうので、女性に向けた気持ちのようにHe をShe に変えろって言われたり。バンドのメンバーに「一部のオーディエンスしか対象にしないような活動は、一人でやってくれ」と言われる。

麻薬疑惑発覚後、ジョージはパパラッチを振り切って、もう別れて彼女もいるジョン・モスに会いに行くシーンがある。

ジョージは、「僕はそんなに悪いことをしたんだろうか?」って訊くと、ジョンは「年とって、昔ほど可愛くなくなったんだよ・・・。ボウイだってそうだ。ジギー・スターダストを殺して、Station to Station 出して、終わりだと思われてた。でもLowを出しただろ?今お前は、Station to Station と Low の間なんだよ」と言う。

これも切ないなあ〜って思ったね。エンタメ稼業のなんと辛いことか。みんなにチヤホヤされたり、ドーンと落とされたり。

ラストは、初めて出演するトップ・オブ・ポップスで、多分、ジョンに浮気されたかなんかでめちゃ辛いんだけど、笑顔で「Do You Really Want To Hurt Me」を歌うシーンで終わる。

このダグラス・ブースのボーイ・ジョージの真似はちょっとイマイチだったし、ワンコーラスしか演ってくれなかった。全編ほとんどカルチャー・クラブの曲を使わず、最後だけこの曲を出したんだから、せめてこれだけは1曲丸々やって欲しかった。
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