荒野の狼

君の膵臓をたべたいの荒野の狼のレビュー・感想・評価

君の膵臓をたべたい(2017年製作の映画)
5.0
小説版の原作とは異なり、映画版の本作では12年後の主人公春樹の回想という形で、高校時代の亡くした友人、桜良(さくら)との出来事を思い出すという形になっている。一見、高校生の恋愛ストーリーである本作が、このスタイルになると、視聴者を若い世代のみならず中高年の世代にもより共感が得られる仕上がりになっている。
中高年ともなれば、人は誰しも、心の中で、ずっと生かしておきたい亡くした人がいるものである。人というものが肉体ではなく精神であるとすれば、その亡くした人のリスペクトできる生きる姿勢を自らのものとすることができれば、それは実現できる。しかし、亡くした人のことは、往々にして年数が経ってはじめて、いかに自分にとって大事な人であったのかを気付いて涙したり、何年も自分の心から、その人が離れてしまってから舞い戻ってくるということがあるものである。
本作では、主人公の春樹が、おそらく長年、思い出すこともなかったクラスメートの桜良を、12年後に高校の図書館に入ることで思い出していく。この映画では、桜良は春樹のことを、友人でも恋人でもなく、「仲良し」であるとしているが、この「仲良し」が映画の冒頭で紹介される「星の王子さま」に出てくる単語apprivoiserの原作者なりの訳であるということが察せられると、映画の意図がみえてくる。
「星の王子さま」の中では、王子にキツネが自分を「飼いならしてほしい(仏apprivoiser)」と申し出るくだりである(ちなみに映画の冒頭で春樹が生徒に講義をしているのがこの場面)。原語のapprivoiserの訳は日本では「飼い慣らす」、英語ではTameとなっているが、どちらも仏原語の意がつくされていない。つまりapprivoiserは二つの存在の間が徐々に親密度を増大させ慣れ親しむという意味で、両者に上下関係はない。
キツネはapprivoiserの意味がわからないという王子に、「それは、絆を作る、ってことさ」(p96、星の王子さま、集英社文庫)と答えている。実際、星の王子さまでもapprivoiserはや訳出箇所によっては、「仲良くなる」と訳されている。映画では、春樹に「君にとって、生きるってどういうこと?」と問われた桜良は、「誰かと心を通わせることかな。人とのかかわりが、私が生きてるっていう証明だと思う」と答えているが、この答えは「絆をつくる」に極めて近い。春樹は共感し、そんな桜良になりたいとすら願うが、この部分は、後に桜良が春樹にもたくさんの人と心を通わせる人間になって欲しい、そして「春樹の中で生き続けたい」とする想いと、通じている。
生きることの意味、生きている人のみならず亡くした人との絆なども、しみじみと想わせる作品である。本作は桜良役の浜辺美波、春樹役の北村匠海と小栗旬の三人が好演しているが、特に北村の堰を切ったような号泣シーンが涙を誘う。
荒野の狼

荒野の狼