10円様

こころに剣士をの10円様のレビュー・感想・評価

こころに剣士を(2015年製作の映画)
3.5
初めて名前を聞く監督。見たこともない役者。ルールも知らないフェンシング。そして何処にあるかも分からない国、エストニア。何故この映画に惹かれたか。それは
「こころに剣士を」
って邦題。これは勇気ある者を描いた映画に違いない。

第二次世界大戦の事。1940年代。ソ連がこの国に侵攻し、ソ連に都合の良い政府を作れと言った。小国エストニアは抗う術もなく要求を承認。ソ連の傀儡国家となる。その後ドイツがこの国に侵略。エストニア国民はソ連からの解放を喜んだが束の間、国勢は悪化の一途を辿る。争うドイツとソ連軍。いわゆる独ソ戦にはなんと両国の部隊にエストニア人も編成されていたのだ。同じエストニア人がかたやヒトラー側で、かたやスターリン側で殺し合った。想像するだけで胸が痛くなる。やがてドイツ軍の敗戦色が濃くなり、あの日ヒトラーが自決。再びこの国はソ連のものとなった。だがまだ国民の恐怖は消えることはない。今度はドイツ軍に従事したエストニア人をソ連秘密警察が躍起になって探している。捕まれば処刑か強制収容所送り。密告する人間とされる人間が隣同士で暮らしている。この時代のエストニア人は生きた心地がしない。
って背景があるが、この部分映画では多くは語れられない。

主人公エンデルネリスは元フェンシング選手。どうやらドイツの軍隊に所属していたため、ソ連の秘密警察に追われている。偽名を使い身元を隠し、田舎村で教師として逼塞しているわけだ。
そして彼はここで子供たちにフェンシングを教える。

教師陣にこの時代封建制度の遺物と揶揄される競技。道具が無くて棒切れでやったり、教え子の家族が捕まったり、それでもエンデルは子供たちに「前に出ろ」と教える。それと対比するかのような終盤のシーン。レニングラードで開催されたフェンシング大会会場。秘密警察がうようよいる。エンデルは教え子の試合を見ずに逃げようとするが少女マルタが言う「一緒に闘うの」と。

子供たちは試合に勝つために…
エンデルは時代に勝つために…
「こころに剣士を」持とうと決めたのだ。

時代背景からか全体的に乾いた埃っぽい雰囲気の全編。台詞が少ないぶん役者の疲れきった表情と、フェンシングに生きる事を見出す子供たちの活力ある表情が際立つ。歴史的背景を知って初めて納得する演出。これは良い作品に巡りあえたと思う。

ちなみに退廃的スポーツを媒介に教師と生徒の絆を描いた「コッホ先生と僕らの革命」という傑作があるが、こちらも合わせて観てくれると嬉しい。