カツマ

フェンスのカツマのレビュー・感想・評価

フェンス(2016年製作の映画)
3.8
ふとゴヤの『我が子を食らうサトゥルヌス』という絵が頭をよぎった。自らの不幸を家族にまで背負わせる死神。この物語の主人公は死神と常に対峙していたのだろう。つまりは自分自身の人生と。だが、そんな彼の弱さを埋め合わせるように妻や息子達は強くなっていく。原作はオーガスト・ウィルソンの戯曲。デンゼルワシントンとヴィオラデイヴィスの圧倒的な演技がこの映画の核。アカデミー賞助演女優賞を受賞している。

かつて野球選手としても活躍したトロイは清掃員として家族を養う日々。献身的な妻ローラとは18年間連れ添い、息子も2人いる(1人は腹違い)。トロイは人生を語り、家庭内では全能の神のように振る舞った。だが、彼が犯した不貞が家族を一気に氷河期へと連れ去っていく。妻の叫び、息子の鬱屈。それらを抱えきれないトロイは言い訳をし、自己を正当化するしかなかった。

序盤からデンゼルワシントンの早回しかと思うほどの会話劇は圧巻。だが、それを更に凌駕するのがヴィオラデイヴィス。感情を押し殺しながらも献身的な妻を演じ、ついには夫と対峙することになる強い女性を熱演した。人生とは誰かの人生を奪ったり、与えたりして出来ている。年月が経過して初めて分かることもきっとある。大切な人が亡くなってから分かることも、きっとあるのだろう。
カツマ

カツマ