グラッデン

ムーンライトのグラッデンのレビュー・感想・評価

ムーンライト(2016年製作の映画)
4.0
当初、1人の人間の「アイデンティティ」がテーマであるといった印象を受けていましたが、作品が進むに連れて(特に第3幕)「愛」の物語であることに気づかされました。

冒頭の同級生に追いかけられる主人公は廃墟に逃げ込む描写は、後に語られる彼の立ち位置を象徴する場面であったと思いました。限られたコミュニティの中にある、マイノリティの厳しい立場を強く印象付けたと思います。

だからこそ、逃げまとい、街を彷徨う彼に手を差し伸べた密売人の男の優しい表情と態度、そして友人の距離感に深い慈愛を感じました。そうした人々の出会いと離別、そして再会の中で主人公が抱く感情の動きが痛く伝わってきました。

また、物語だけでなく、鑑賞者の目と耳に「揺さぶり」をかけ続けられた印象を受けました。目線の高さや実際の目の動き等を意識したようなカメラの動きは不安定に揺れ、そして視野が定まらない場面が何度かあり、人物の心情描写とリンクしているように感じました。音楽の挿入もメリハリのある切替で、逆に感情面でのスイッチを印象付ける演出がありました。そうした駆け引きの中で、次第に作品にのめり込んでいきました。

LGBTに対する国際的な動向、特に米政権における姿勢に対するメッセージとなりうるテーマでもあることから、本当に今見ておきたい作品ではないかと。

ムーンライトが世界にくまなく届くことを願って。