うるぐす

昼顔のうるぐすのネタバレレビュー・内容・結末

昼顔(2017年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

ドラマが放送されていた2014年から、映画が放送されている2017年現在まで、3年の時が過ぎている。それは、この映画で紗和(上戸彩)と北野先生(斎藤工)が2度と会えなくなってから過ぎ去った時間と同じなわけだが、この3年間、日本で不倫という言葉を一度も聞かない日なんてあっただろうか?常にメディアにおいて「許されない恋」を許されない物だと当然の議論をし尽くすそんな毎日だ。それはどんどん過剰になって、今ようやく同じおもちゃに飽きる子供のように、不倫についての関心は薄れてきている。そんな絶妙なタイミングでの『昼顔』劇場版。
最初に言ってしまいます。

素晴らしかった!!!
演出の一つ一つも、ストーリーも、演技も。マジで観ろ!!
上戸彩、これから映画のお仕事増えて欲しい。この昼顔をやりきった上戸彩をスクリーンでもっともっと見たい!なんだあの服着たエロスは。脱いでないのにすごいエロい。思ったんですけど、上戸彩ほど純なままであり続けた人っていないんですよね。だから、昼顔を上戸彩で撮りたいと言い続けてきたここのスタッフはマジで信用出来るなと。

まず、ドラマ観てた人はやっぱり観た方が良いです。あの終わり方で美しかった、という意見もわかる。分かるんだけど、観るべきです。
で、ドラマ観てない人。ドラマの知識、全然無くて大丈夫です。これが不倫ドラマってことと、北野先生の妻、乃里子(伊藤歩)がプライド高くて頭が良いこと分かってれば大丈夫。


あ、もうこっからはだらだら書くんで見なくてもいいです↓↓



紗和(上戸彩)が十字に交差する窓の格子の前で、誰も知らない新たな場所でバイトの面接を受ける所からこの映画は始まる。その姿はまるで十字架で3年経っても“あの罪”の意識は消えてないことを示す。ということは言いかえると“あの人”のことを忘れることが出来たわけではないんですよね。
そこから、北野先生(斎藤工)が紗和の街に講演に来ることを、たまたま知ってしまう。その知り方も、風が吹いたから。ってそれ、ピースオブケイクでの多部ちゃんと綾野剛かよ。
紗和はその講演観に行っちゃうんですよ。3年前に書面で二度と会ってはならないって決められたのに。始まりました、『昼顔』のお時間です。会場の扉を開けると聞こえて来るあの声、見える影、そして本物。ここの上戸彩の表情、完璧です。北野と会っちゃいけないから見つかっちゃダメなんだけど、見つけて欲しい。この心情描写、はっきり言って神です。2人が目が合った瞬間止まってた3年間が動いちゃうんですね。紗和はあの頃と変わらず「北野先生」って呼んでるのなんてもう…さらに可愛いのが、会っちゃいけないってルールだから、同じ場所で同じ時間を過ごすけど、会話はしないしては繋がないんですよ。会ってるだけでルール違反してるのにw で、一方、北野夫婦において、妻・乃里子は「子供諦めてないんだからね」って言ってるわけですよ。もうこの時点で勝負はついてるんですよね。
それからまあ2人ラブラブなんですよ、妻・乃里子に結構すぐバレるんですが、その結果、北野先生は紗和と一緒になることを選ぶんですよね。ここがこの映画版がドラマと大きく違うところで、紗和と乃里子がテニスのシングルスしてるとしたら、ボール(=北野先生)が初めて紗和の陣地に入ったんですよね。同棲することになり。
ここから結構ドキドキするんですよね。ドラマの時ってお互い、他人同士の他所行きの恋だったのが、より内面的になる。「あれ?そういえば北野先生の外面しか知らないぞ?」ってなるんですよ。紗和だけじゃ無くて、観客も。と思ったら、色々疑わしくなってくるんですよね。だって、自分が一回裏切ったら信じることが出来なくなるから。昔から思ってましたもん。誰かの彼女奪って自分の彼氏にしたら、自分以上の男現れたら奪われるやんって。それはそうですよね。裏切られるかもって不安でいっぱいですよ。
「人を愛することは、奪うこと。」脚本の井上由美子はそう語ってました。まさしくその通り。奪われた方は他の物を奪うか、奪い返すかしかない。で、ここから乃里子がどんどんホラーの様相を帯びてくるんですよね。
そしてこの物語もう1人の重要人物、紗和のバイト先のオーナー杉崎(平山浩行)。フジの木曜10時ドラマで平山浩行よく見るなあと思ってたら、昼顔も元々その時間でしたね。この杉崎が映画で絶妙なバランスを取ってるんですよね。この男がいることで、東京と田舎の違い、紗和がW不倫の末に離婚したことの噂の広まり方、閉塞感にリアリティが生まれ、不倫された側の意見を第三者から紗和に伝える役割、北野先生からの紗和への猜疑心を生む役割など。でも、平山浩行の生まれ持った善人オーラが手伝って説教臭くも嫌味っぽくも聞こえない。素晴らしいキャスティング。素晴らしい。
北野が紗和と同棲してからも乃里子と会ってる事に気付いた紗和は、北野がまだ乃里子に思いがあってだからこそ離婚に踏み切れないと思う。で、杉崎といる方が楽しそうな顔し始めるんですよ。ここら辺の心理戦。恋愛ってめんどくせえな、マジで。
でも、ある日、紗和は乃里子の元へ、北野は紗和のバイト先へ向かいお互いの疑いは解消される。そして、北野は離婚届を遂に乃里子からもらえる事になった。とあるお祭りの日。家を出る時、初めて紗和に「好き」と言いかけたがやめた。一度も「好き」と言った事はなかった。正式に離婚してからにしようと思ったのか。一方、紗和は祭りに参加することになる。その祭りではうまく踊ることが出来ると良いことがある。しかしながら、北野は乃里子の車に乗り、乃里子が発狂して暴走した結果、事故にあって死んでしまう。死ぬ間際、「分からないけど、紗和が好きだ。」という言葉を、紗和に届けることはできなかった「好き」を、残して。その後の紗和の絶望。この線路での演技、不安定すぎて目を塞ぎたくなる。たまらない上戸彩の演技。
で、ラストの紗和の語りで、この物語がハッピーエンドかバッドエンドかは俺たちに投げられる。

●正式には
初めて2人が出会った場所も、2人が一度別れることになった場所も、最後に会う場所も、全て公権力の場所。その場所においては2人はオフィシャルな関係でないことを突きつけられてきた。当然、北野の遺体は乃里子の元へ行くわけですよ。「正式には」離婚届を出し終わってないので、乃里子が配偶者ですから。正式には。この正式には、公式には。が不倫が絶対に報われない最大の敵ですよね。
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