しまうま

ジェーン・ドウの解剖のしまうまのレビュー・感想・評価

ジェーン・ドウの解剖(2016年製作の映画)
4.0
 ここ最近見たホラー映画のなかでは抜群に怖かった。
 ホラー耐性がある程度あるんじゃないかと思っていた自分を呪いたいくらい、今作の「恐怖」の静かなるパワーには、拍手を贈りたい。
 最後も含め、そういう意味で大満足な一本になりました。


 予備知識を全く入れずに観る気になったのは、タイトルが素敵だったからだ。これが邦題か原題ままかはわからないけど、何か薄気味悪さを漂わせながらも、上質なホラーを提供してくれそうなタイトルに惹かれた。まずはそこを褒めてあげたい。

 そして実際に観始めたら、まあ怖い。Netflixで観た僕は途中で何度も停止ボタンを押さざるをえなかった。こんなことは『SAW』や『死霊館』シリーズではありえなかったし、『エイリアン』などのシリーズは(怖さという意味では)子ども騙し程度にしか感じられない。ちょっと思い当たらないくらいの恐怖だった。


 なぜそんなに怖かったのか。
 それは「何が今起きているのか」そしてキャストたちの身に「何が迫っているのか」が、ほとんどわからないからだと思う。照明の薄暗さ、音響効果も僕には絶大な影響を及ぼしてくれやがった。あとは後々の「ネタバレありの感想」に書こう。

 それと主演の二人、エミール・ハーシュとブライアン・コックスの二人がもういかにも「検死官という特殊な仕事をしている一般人」の風貌を呈していて、良かった。僕は知らなかったけど、今作に携わった人は監督、音響、キャスト含め、みんな素晴らしい経歴のある人たちだったんだね。そういう人たちが集まって「ちゃんと」ホラーを撮ると、こんなにもすごいものになるんだと、心底感心してしまった。

  ホラー好きな人には絶対観てほしいけど、同時にホラーやグロ耐性のない人は絶対観ないほうがいいと思う。そんな映画でした。


▪️▪️あらすじ▪️▪️


 バージニア州の田舎町にて、一家3人が惨殺されるという凄惨な事件が起こった。その家の地下からも全裸の女性が遺体となって発見された。その女性のみ身元不明だったため、警察はそれを「ジェーン・ドゥ(日本でいう「名無しの権兵衛」女性版)」と名付け、検死官の元へ送った。
 検死に当たるのはベテランのトミーと、その息子オースティン。警察側から「ジェーン・ドゥの検死は今夜中にお願いしたい」との要望を受け、オースティンは恋人との約束があったにもかかわらず、残業をすることを決意した。
 が、検死が進むにつれ、ジェーン・ドゥの遺体の奇妙さがだんだんと判明してゆく。


▪️▪️ネタバレありの感想▪️▪️


 何でこの作品がこんなに怖いのかなと思ったら、ジェーン・ドゥ役のオルウェン・ケリー(モデルさんらしいですね)という「諸悪の根源」的存在が、全く動かないことにある点が大きい気はする。彼女は今夜の異常な出来事のきっかけであり、元凶であるにもかかわらず、最後の最後までほとんど動くことなく、ただそこに存在し続ける。
 なぜ、こんな異常なことが起きるのかがわかる(しかも、わかるといっても検死官親子の想像上で)のは、ラスト15分くらいか。それまでは「未知との恐怖」に悩まされる親子と僕ら視聴者。
 
 もちろん、「諸悪の根源」という書き方をしたけれど、彼女も一種の被害者であるという描写があるところが、物語に深みを増していて良い。検死官親子も、それぞれ良心や義務感のために行動する、基本的にはすごく善人なため、彼らには生き延びてほしいと願う。だから、なおさらアクシデントが怖い。

 そもそも設定がオシャレだよね。
 遺体の状況が、外傷はないのに内部はズタズタであり、舌は抜かれ、肺は黒ずみ、心臓にも無数の傷がある。脳は無事だけど、手首や足首の骨はバラバラ。
 素人でも、この遺体がおかしいと思わせられる。というのは、解剖学に全く見識のない僕でも、物語の最初にトミーが「検死」という仕事の概念について、さりげなく説明してくれる。僕らは息子オースティンとともに、父の背中を追うだけで、不思議とジェーン・ドゥの遺体の怖さに気付かされる。


 今作、キャストが全員素晴らしかったけど、何よりジェーン・ドゥ役のオルウェン・ケリーさん、撮影中すごく大変だったでしょうね。まずは彼女に100ポイント贈りたいです。
しまうま

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