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ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣のslowのレビュー・感想・評価

4.2
天才にして異端。
何故、彼はそう呼ばれるに至ったのか。

大好きなバレエの道に進ませてくれた家族。その期待を一身に背負い、託された未来を閉ざしてはならないとバレエに人生を捧げてきたセルゲイ・ポルーニン。その才能は瞬く間に開花を始め、同世代どころか、プリンシパルを目指すダンサーの中でも突出した存在として知られるようになっていく。線の細かった体も、成長するにつれ誰よりも優雅に飛ぶ強靭でしなやかな肉体となり、観客を魅了。まもなく、セルゲイは19歳にして英国ロイヤルバレエ団のプリンシパルに史上最年少で昇格を果たすことになる。
着実に階段を駆け上がり、順風満帆に見える彼の人生。しかし、心は置き去りにされたまま、巨大化した自らの影を彷徨い続けていた。この成立しない取引を仕組んだのは誰だ。少年は掻き消された幻を睨み恨み、メタモルフォーゼは悪魔と交わした過ちの証として他者を威圧する。

日本人ダンサーの活躍などを時々TVなどで見ることはあっても、なかなか身近なものではないバレエ。しかし、このセルゲイ・ポルーニンという男の佇まいには凄味というか、人を惹きつける魅力を感じる。これがオーラが強いということなのかも。ただ、彼を説得してやっと撮影できた映画だそうで、本音がどこまで語られているかはわからない。実際、もう少し踏み込んで語ってくれるのかなとも思ったので、ドキュメンタリーとしてはやや物足りない。しかし、言葉にしなかった分、セルゲイはダンサーとしての答えを最後に魅せてくれた。なるほど、何を語るよりも説得力がある。バレエ好きの方、気になった方は、是非鑑賞してそのメッセージを目撃してほしい。
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