YasujiOshiba

ゲット・アウトのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

ゲット・アウト(2017年製作の映画)
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ネトフリ。これはよい。

スパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』に背中をおされて鑑賞したけど、スパイクと同じ香りがする。たしかにレイシズムはある。その意味では「政治的だけど、説教臭くなくて楽しい not preachy, but fun.」。

監督のジョーダン・ピールはコメディアンの出身だという。なるほどセリフなかに潜ませれる亀裂が効果的に効いてくる。たとえば「私の父はオバマに3期目があったらぜったい投票していたはずよ」というセリフ。白人の娘が黒人の彼氏に言うのだから、なるほどこの父親はものわかりがよいと思わせてくれる。

その娘ローズを演じたアリソン・ウィリアムズは、そんなセリフに説得力を与えている。だから、彼氏のクリスも納得する。 ダニエル・カルーヤがそんなクリスの不安と安心をみごとに表現している。イギリスから来たカルーヤと、ミュージシャンでもあるアリソンのキャスティングと、ピールの書くセリフのノリに、ぼくらはみごとにのせられるのだ。

この感覚は、たしかに『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)のそれに似ているかもしれない。そしてたぶん『ステップフォードの妻たち』(1975)にもそんなところがあるのだろう。ピール監督によると、この2つのホラーの名作が出発点にあったという。

ポイントは、どちらの作品にも「ウーマンリブ運動」の影響のものとで、政治的にも関わりながら、決して説教くさくなく、むしろ楽しい映画になっているところだ。ウーマンリブ運動に関わるものがあるならば、人種差別に関わるホラー映画があってもよいではないか。それが、ピール監督の出発点だ。

もちろん、人種差別を扱うホラーがないわけではない。ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)には、はっきりと人種差別が描かれているが、それ以降がない。ないならば、自分で作ってやろうではないか。そう考えたジョーダン・ピールが書き上げて、みずからメガホンを取ったのがこの作品だという。

ジャンル映画への偏愛と政治的なアンガージュマンは両立する。アメリカ初の黒人大統領バラク・オバマが2期を務めあげ、正反対の金髪の白い大統領が着任した2017年1月20日の数日後、サンダンス映画祭で公開されたこの『ゲット・アウト』が、ラストシーンをいくつかのヴァージョンのなかから、まさにあれにしたことを、ぼくは大いに評価したい

少しだけ『カビリアの夜』を思い出す。この映画は殺された女性の三面記事から出発してものだけど、現実のとおりにやる必要はない。むしろリアルを裏切るくらいでなければ映画にする意味がない。『ライフイズビューテイィフル』だってそうだ。ラストのアメリカ軍の戦車は、歴史的には大嘘だけど、そうじゃないんだ。寓話としての映画だから、あれでいいんだよ。

映画はなによりも「楽しい」ものでなければならない。こいつはホラー映画なんだから、ホラー映画としての「楽しさ」を貫き通すことではじめて、その政治的な責務が果たせるんだよ。そこはゆずれない。なにせクローチェ主義だからね。

だってさ、はじめっから「説教くさい」映画なんて、誰も見ないだろ?
YasujiOshiba

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