HicK

ムーランのHicKのレビュー・感想・評価

ムーラン(2020年製作の映画)
3.3
《作風趣旨には賛同も、無機質さが残念》

【実写アレンジ】
アニメ版のストーリーラインを踏襲しつつ、戦場ドラマにフォーカスを当てたアレンジ。ミュージカル要素やコメディー要素を排除した点は賛否もあるかもしれないが、シリアス路線に踏み切った作風は個人的には好み。生死をかけた戦いはまさに中国の大河ドラマといった感じで、ディズニー作品としてユニーク。

【しかし今作最大の欠点】
欠点、それは…。ムーラン役の主演女優の表情が終始ブランクだった事。笑顔の場面以外の、怒り、悲しさ、葛藤、もどかしさ、その全てが無表情。そのせいで、ドラマにも血の通いが感じられない「冷たい」印象が。見終わってからの映画自体の印象も「無機質」といった感じ。色鮮やかな景色も魔法がかった戦闘描写ももはや「人工的」に感じてしまう。全ての印象が変わってしまった。

【新たなムーラン像】
今回の新たな要素である「選ばれしもの」というムーランの設定自体は受け入れられるものの、彼女の演技との相性は悪く、「人間味がマイナスされ才能がプラスされる」という嫌な感じの仕上がりに。なによりムーランの「一生懸命さ」が感じられず…。

【原作から削られた場面】
今作は、ムーランが父の代わりに戦場へ行く事を決意するシーンが大きく削られたのも残念。アニメ版では「♪リフレクション」に乗せて、性別による障害や周囲の期待からくる葛藤を描き、どう生きたいか彼女に決断をさせる大切なシーンだった。しかし今作ではモンタージュ処理。中盤で魔女との似たシーンはあるが、そもそももっと大切なのは葛藤を振り切り戦闘に行くという決断をした事。調べた限り、原作「花木蘭」では重要な要素のような気がするが…。

【演出】
フォトジェニックさやカメラワークなど、全てのシーンにおいて視覚的工夫が詰め込まれ、「グリーン・デスティニー」のような作品を目指すという趣旨は明確だった。ただ、全ての演出がうまく回っていたようには思えない。例えば、カメラがクルッと回転する場面では演出意図が見えなかったり、芸術的なファイトシーンを目指すためにカットが細かく分かれ、繋がりが大胆で荒かった。あと、途中でナレーションが突然出てくるのも気持ち悪い。

【良かった点】
・アニメ版の"幸運のコオロギ"のオマージュの青年。
・ムーシューに変わる不死鳥は、造形がとても美しく神々しい。
・魔女は出番が少ないものの、「本当の自分を隠していては、自身に備わる才能も殺してしまう」と現代に通じるようなメッセージ。
・アニメ版ムーランのミン・ナのカメオが嬉しい。
・「リフレクション」のオーケストラの壮大さ。メロディーが好き。

【総括】
原作完コピのディズニー実写リメイクが続くなか、今作の「異色のディズニー作品を作るんだ」という方向性は賞賛できる。ヴィジュアルも豪華で、何かが違っていたらMYベスト級に入りそうなポテンシャルを持っていた。残念な点を言えばキリがないが、やっぱり1番は感情的な熱を感じれなかった事。
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