emily

光のemilyのレビュー・感想・評価

(2017年製作の映画)
4.5
視覚障がい者のため映画の音声ガイドをしている美佐子は視力を失いつつある天才カメラマンの雅哉とモニターの意見を聞く場で出会う。彼の冷酷な態度に苛立ちを隠せなかったが、視力を失っていく彼と接する内に大事なことに気づいていき、彼の撮った夕日の写真の場所にいつか連れていって欲しいと願うようになる。

本作は音声ガイドの声から始まり、そこから想像力を働かせることを観客に求めてくる。いかに視覚に頼って日々生きており想像力が乏しいかを思い知るのだ。音声ガイドと言う仕事もドキュメンタリータッチで描写する。モニターの人達の意見を聞き、主観を排除しながら、映画の枠を狭くすることのないように、音声だけで作品の世界観を広げることができるように自由で壮大な深みのあるガイドが求められるのだ。

劇中劇はガイドをつける形で1つの作品として世に出されていく。見える見えないの境界線と固定概念を翻す、説得力がありながらも押し付けがましくない描写が多種多様な光と重なり合う。ガラス越しの光、暗闇の中の光、眩しすぎる夕日、木々の間から溢れる光、思い出の中にある光、その意味合いも様々であり、さらに観客により色んな意味合いを持つだろう。寄り添う切ない音楽も、煌びやかで繊細に注ぐ光と一体化し、まるで光の中に体が溶けていくように吸い込まれていくのだ。

視覚を失っていく恐怖を側で見ることで美佐子は自分の中に無意識のうちに引かれていた境界線に気がついていくのかもしれない。それは差別心ではない。実際に見えるからどうしても視覚に頼ってしまうのだ。見えないと言うことは本当の意味で光を失うのではなく、それを感じることなのかもしれない。見えなくなることではじめて"感じる"事を懸命に行う必要があるのだ。それは映画を受け取る側としての責任と想像力の欠ける現代人に痛切に問うてくるのだ。

目を閉じて音声だけを聞いて想像してみればいい。そこから広がる世界は今まで見えなかったものをみせてくれるだろう。光は見るものではない。そこにあればきっと見逃してしまうだろう。それは心の目で視覚に蓋をしたとき浮き上がってくるのかもしれない。光と陰が心の豊かさと見事に交差し、忘れていた大事なものを思い出させてくれる。光はいつだってそこにある。要はそれに気が付けるかだ。。
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