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散歩する侵略者のemilyのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
4.2
 行方不明だった夫真治が別人のようになってかえってくる。毎日どこかへ散歩に行って、不可解な行動や言葉が妻・鳴海を戸惑わせるが、それにより救われる人もいる。一方街では一家惨殺事件が起き、事件を追っていたジャーナリストは少年と共に家族の生き残りの少女を探しはじめる。町は自衛隊があふれ、不穏な空気が漂い、夫は「地球を侵略しにきた宇宙人だ」と告白する。

 じわりと寄るカメラ、引きで捉えるカメラ、閉鎖的なカメラ、風や光と影を利用した不穏な”何か”を感じさせるカメラワークにSFを感じさせる音楽がのり、一気にサスペンスフルなじっとりとしたカメラが打ち破られコミカルティストにシフトしていく。

 ”宇宙人”という地球の事を全く知らない生態として地球人と会話する上で発生するギャップをコミカルに、人間が避けてるテーマをずけずけと切り込んでくる。宇宙人は人間の”概念”を奪い地球人を研究している訳だが、その奪う概念のチョイスが非常にユニークである。それを奪われる事で、それに縛られていた人たちは楽になり、前向きになって行ったりするのだ。侵略されながらも、それがプラスに働いてる皮肉、また自ら宇宙人と交流していく桜井はどんどん侵略にはまっていき、気が付いたら宇宙人の手助けをしている皮肉。サスペンス、ホラー感を常に漂わせながら、コメディ、アクションと非常に幅広いジャンルを従え、演者たちの体当たりの演技も光る。

 意外性とベタな見せ方が確信的に交差し、日常の一コマのような描写と非日常の大きな物としての捉え方、対称的という訳でもなく、確信犯的にごっちゃまぜにしてる感がある。そうして最後はシンプルに愛に集約されていく。メッセージ性は非常にシンプルであるが、緻密に重ねられたカメラワークにより先を想像させる展開を見せてくれ、最後まで全く飽きる事なく楽しませてくれる。そうして人間のバイタリティーを感じずにはいられない。すぐに順応するもの順応できない物、いずれにせよ人は結構丈夫で、簡単に壊れたりしない。

 観客の”概念”を映画自体が操りながら、意外とチープで突拍子もない展開を見せてくれる。意外とそんなものなのだ。簡単に侵略され侵略し、その境界線はいとも簡単に壊されていく。”愛”そのものが侵略なのかもしれない。愛は人を変え、今まで見てた世界を全く別の物に見せてくれるのだから・・
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