グラッデン

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?のグラッデンのレビュー・感想・評価

3.0
原作に当たる岩井俊二監督の同名映画は何度か鑑賞しております。その意味では、原作からの「継承」と「革新」をどのように作り込めるのか、という部分も意識しながら本作の鑑賞を進めました。

鑑賞を進める中でリアリティとファンタジーの配分、それと関連する多層化する世界線の描き方が気になりました。

例えば、主人公をはじめ登場人物たちの描写については、一昔前の中・高生であった当方はともかく、本作のメインターゲットとして想定されるリアルタイムの中・高生が見たら、スマホが出てこない、家庭用ゲーム機を囲ってプレーする風景に違和感を覚えるのではないか。

あるいは、田舎を連想させる街の描写と、都会でもなかなか見られないような立派な施設をガラス張りのモダンな校舎は対称的に見えるし、写り込んでくる巨大な風車も(作品世界の状況を表す暗喩として利用されてるのは理解するものの)浮いて見えてしまう。

原作の雰囲気を残しつつ、現代性を取り入れる姿勢は伺えるものの、どうしてもパッチワークされたイメージが強かったです。

的確な例示とは言えないかもしれませんが、昭和とも平成とも言えない世界線の日常映し出す現代の『サザエさん』の世界に近いかもしれません。舞台や人物描写といった本作の土台となる部分についてはリアリティを追求する部分とファンタジーに徹する部分をもう少しハッキリさせても良かったかなと思いました。

また、物語の肝となるのは主人公の様々な「こうであったら」= if の世界です。ネタバレにならないように伏せますが、原作からの大きな追加要素として、本作ではトリガーとなる存在が登場します。ある種の妄想、幻想という側面からタイムリープ要素を加味する仕掛けとしては良かったかなと思います。
一方、(上記の指摘とは逆説的ではありますが)現実と幻想が曖昧になる独特の雰囲気に引き込まれてくるのが岩井作品の魅力ではあるとも考えられるので、その点は勿体無いとも考えられるかもしれません。

ただし、実写からアニメという表現手法の違いに加えて、独特のスタイルを持つ岩井作品だけに、どう表現していくのかも含めて難しい部分であると思いましたし、ならば独特のスタイルを持つシャフトをぶつけるというのは手法としては良い切替ではあったかなと思います

以上、長々と書いてきましたが、マニア・カルトの要素が強めの岩井作品を原作にして、王道・名作の青春映画、あるいは稼ぐモノをつくるのは難しいなと感じました。