トモロー

アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダルのトモローのレビュー・感想・評価

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①実在の大事件の実態は、イヤラシサが全開なコメディ

アメリカの歴史上、かつてないほど嫌われ、話題にされ続けた1人の女性アスリート、トーニャ・ハーディング。

彼女のことは今回の映画で初めて知ったのだけれど、事件の行方を追えば追うほど、当時の世間が彼女に釘付けになってしまうような要素がこれでもかと込められていることがよくわかる。

ただ、作品を観てその認識さえ甘いことを知った。多くの人の人生を狂わせた大事件が、あんなにお粗末かつバカバカしい登場人物たちの手によって行われたなんて…。

DVを繰り返すおつむの足りない夫。自分を特殊機関の諜報員と言い張り、数々の経験を声高に語るひきニート。

どう考えても足が見つかるような有様。つい最近『モリーズ・ゲーム』を観ていたから、なおのことその「チンケさ」が目についてしまう。

後味の悪いコメディのように展開されるシナリオ。とはいえ、言っても登場人物たちは映画仕様として、大いに脚色された結果のキャラクター性なんだと思っていた。

そんな疑問も、エンドロールに流れる映像で覆されてしまう。

おいおい、嘘だろう。そのまんまじゃないか。どいつもこいつも、外見からセリフ、雰囲気まで今しがた映像そのまんまじゃないか。

俳優たちの再現度の高さたるや、笑わずにいられない。本当にこんなおおバカどもが、あんな体たらくで起こしたのかよ…と開いた口が塞がらなかった。

②後味の悪い展開が教えるのは、人生の苦味と覚悟

作品を通じて描かれるのは、天性の才能を持ったトーニャのあらゆる受難。

自分の才能を見出しながら、幼少期からあらゆる暴力と、教育の場を奪い去った母親。そんな母親に辟易して離れる父親。

心の拠り所として見つけたはずが、DVと情緒不安定な態度でかえって彼女を追い詰める夫。そして、彼女のキャリアに終止符を打った夫の友人…。

今作は様々なシーンで、第四の壁を越えて登場人物たちが観客へ語りかけてくる。その時の自虐的な表情やセリフの節々には、「当時は、どうしようもなかったんだ」と半ば諦めのような雰囲気があった。

その雰囲気を象徴するように、物語はアクセルを全開にして泥沼へと飛び込む。

後味の悪い展開がずっと続くそのシナリオは、今までの映画で感じたことのない「苦味」と「かっこ悪さ」だった。

感動的なシーンは一瞬に過ぎ去り、それを挟むのはあまりに生活臭のある苦しい展開ばかり。映画じゃなく、三流ドキュメンタリーを観ている気分だ。

でも、その姿はまさに「僕たちの人生」をなぞっているようにも感じてしまう。

苦虫を噛み潰したような不愉快極まりないことなんて、いくらでも起きる。

もっと言えば、この物語ほどのバカバカしさはないかもしれないけれど、一見鼻で笑ってしまうような出来事で人生を左右されることなんて、よくあることだ。

自分の選択や周りの選択で、人生の夢を断たれたトーニャ。

あまりに不憫な彼女が大事件を経て、新たな「望まないチャレンジ」に直面した時、聴衆へ告げる1つの言葉には、諦めとは違う熱気のあるメッセージが込もっている。

リアリティのある笑いと苦味がギチギチに詰まった展開で、観ていて胸が苦しくなっていた今作。

だからこそ、最後の最後で彼女が吐く言葉に、現実を生きる僕たちにはある種の救いがあった。

③最後の雑感

俳優たちの再現性の高さ、おくびもなくあの大事件の粗末な顛末を見せつけるシナリオには見所がたくさんあります。

笑っているのに辛くなる、そんなユニークなシナリオは、劇場という空間にいるのに現実の苦味がいっぱいで、途中お腹が痛くなっちゃいました(笑)

また、今作ではトーニャの演技シーンで圧巻のVFX技術が使われていることでも話題になりましたね。本当に、見所がいっぱいな映画でした。
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