トモロー

ピーターラビットのトモローのレビュー・感想・評価

ピーターラビット(2018年製作の映画)
3.0
①「かわいい〜」の気持ちを一瞬でぶち壊しにくる、壮絶なバイオレンスと皮肉

この落差、激しさには正直面食らった。

まず、昨年あたりから映画館で流れていた、第一弾の予告映像だ。その時には、湖水地方で実写として生まれ変わったピーターたち、うさぎちゃんの本当にかわいい映像が映っていた。

それから程なく流れるようになった、もう少しストーリーに切り込んだ予告。そこにはスズメたちを突き飛ばし、宿敵トーマスと平穏な毎日をかけた戦いを繰り広げるという、楽しげな展開があった。

そしてついに訪れた本編…。おいおい、一体どうしたことだ?平和を取り戻すなんてレベルじゃない。マジの殺し合いじゃないか。

いや、これまでの映像通り本当にかわいいピーターやうさぎたち。そこは掛け値なしにいい。イギリスの片田舎のガーデニングや湖、森の映像も素敵だ。

でも、そんな牧歌的雰囲気を吹き飛ばすバイオレンスに満ち溢れた、闘争の数々。しかも、ピーターや登場人物たちの冗談もえげつない。

冒頭からその雰囲気をぶち壊したまま、アクセルベタ踏みでセリフも暴力も加速の一途を辿る。最初はホーム・アローン的な展開かと思いきや、そのレベルさえ飛び越えていった。

そもそも、ピーターラビットって主人公ピーターの設定がかなりえげつない。父親がトーマスの大叔父、マクレガーに捕まってパイにされちゃってるんだから、その暴力性と人間たちに燃やす執念もうかがえる。

この容赦のないシナリオと言葉選びのセンスについていけるかは、今作を楽しむ上でかなり重要な要素だ。

僕はどうだったかと聞かれると、所々で笑いや和ませるシーンに癒されつつも、そして「ようここまで突っ込んでいったなあ!」と驚きと尊敬の念を感じつつも、「見入る」と感じるその一歩手前でブレーキがかかってしまい、正直やや引き気味に観てしまった。

②シナリオ終盤で、ピーターとトーマスが想像以上に重苦しいテーマと向き合っていることに気づく

一切の遠慮なく、トーマスに対して敵意をあらわにするピーター。時に友達さえ死の淵に追いやってまで目的を達成しようとするその執念は、正直異常だ。

でもそれも、彼の両親のエピソードを思うと当然なのかもしれない。トーマスは父親の仇ではないが、まぎれもない「敵」そのものだ。

そしてマクレガーにとって、ピーターは人生のどん底の中でようやく見つけかけた平穏を、ぶち壊そうとする「害獣」そのものだ。

にも関わらず、この1人と1羽にとっての心の拠り所が、同じく1人の女性なのだから、皮肉と言わずになんといえばいいんだろう。

それぞれが女性との生活を奪われないよう、攻撃しあう関係。それを止めるには、互いへの「赦し」が不可欠だ。

一見ライトな世界観でありながら、その実扱っているテーマがものすごい深く、重い。しかもやっていることは超がつくバイオレンス的展開。

ゲーム終盤にさしかかったジェンガのように、非常に危ういバランスで成立する物語。

③まとめ

想像をはるかに超える暴力、社会への皮肉、歯に衣着せなさすぎな揶揄…。物語の背景にあるキャラクターたちが抱える闇が存外に深く、時に笑えるようなジョークもジョークにさえ受け取れないような瞬間が結構ありました。

物語が終えた今振り返ると、ストーリーとしての完成度がとても高いと感じさせる作品。そこにどれだけ没頭できるかは、観る人でかなり意見が分かれそうです。

「かわいい!」という入り口からこんないい意味での裏切りがあるとは、思いませんでした。

観てよかったなあと感じる作品だけれど、引っかかるのは最後!

ラストのラストで、エンドロールでも素敵なシーンが流れる中で、あの一連の映像は果たして必要だったのかなあ…と思わず首をかしげたのだけが、ちょっと残念でしたね。
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