トモロー

モリーズ・ゲームのトモローのレビュー・感想・評価

モリーズ・ゲーム(2017年製作の映画)
4.1
①ジェシカ・チャステイン、圧巻

一瞬でサラリーマンの生涯賃金が吹き飛ぶような、めまいのする賭け事の世界。しかも、そこに出入りするのは超有名俳優やミュージシャン、そして財界のセレブや後ろ暗い仕事をする者ばかりだ。

勝ちたい、貶めたい、復讐したい、女を落としたい…。

今作でも度々登場する「るつぼ」という言葉にぴったりな、狂乱のバーゲンセール。そこに身を落としたなら、中途半端な良心なんてかなぐり捨てて身を投じてしまった方が、ずっと楽だ。

たとえその先に、地獄が待っていようとも…。

そんなおぞましい世界を泳ぐのは、若く麗しいモリー。彼女もまた、金を媒介したスリリングなゲームと勝利の味に浸っていく。

でも、彼女は狂気と正気のギリギリの綱渡りでもって、猛獣どもの巣を巡る。膨大な成功と、同じくらいの失敗と怒り、恐怖にまみれても、あくまで人間としての尊厳を手放さない彼女。

ちょっと影がありながら、強く美しい女性。ジェシカ・チャステインにこういう役をやらせたら、はまらないわけがない!!

②クラクラする台詞回しとナレーション

今作はアーロン・ソーキン監督ならではの驚くほどの量の言葉のシャワーが、ガシガシ物語を彩っていく。

特に、ポーカーゲーム中の解説シーン。CGを駆使しながら役の説明をしつつ、賭け事の闇に消えゆく人々の背景などを説明するあたりは、思わずクラクラしてしまうほど。かなり集中して聴いていたけど、専門的な部分は結構聴き落としてしまった。

そういう意味では、ポーカー好きにはグッとくるシーンなのかも?

でも、怒涛のごとく過ぎ行く台詞回しは、そのまま人々が欲望をコントロールできなくする様と重なる。聞き取れないくらい、整理しきれないくらいの速度が、逆に物語のジェットコースターぶりを盛り上げてくれた。

③終盤で様相を変える、人間ドラマ

作品への感想が変わる要因は、台詞回しともう1つ。それは、モリーを取り巻く人々の人間ドラマが導くクライマックスにあると思う。

今作は実在する女性、モリー・ブルームの伝記を元に脚本が練られているわけだが、そこには本来いないはずの人物・人間関係があり、ドラマが映画内に存在する。

モリーが確執を持つ父(ケヴィン・コスナー)への、愛憎入り混じった感情がもたらすドラマがまさにそれだ。そしてこの確執が、クライマックスでガラリと物語の様相をひっくり返す。

2人の絶妙なやり取り。やきもきする言葉の応酬から一気にストレートな感情が飛び込むその転換に、不器用だけど愛おしい絆の尊さを感じた。

そして、物語の結末までモリーをナビゲートする弁護士を演じたイドリス・エルバの熱演もいい。ジェシカのあの強い眼光や立ち振る舞いには、彼くらい力強いジェントルマンがぴったり似合う。

彼らが導く物語の終わり。僕はこういうエンディングが大好きだ。たとえその先が地獄でも、死別ではなく生が描くエンディングが好きだ。

今作特有の台詞回しとエンディングに至るストーリーテリングは、人によっては物足りなかったり、140分を長く感じてしまうかもしれません。

ただ、僕としては満足感の高い作品でした。ストーリーも好みだし、ジェシカもイドリスも、ケヴィンもかっこいい。観て良かったです。
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