星ワタル

空(カラ)の味の星ワタルのレビュー・感想・評価

空(カラ)の味(2016年製作の映画)
4.5
監督の実体験を基に、女子高生の聡子が摂食障害を通して自分を見つめ直す過程を丁寧に描いている作品。

前半は観客が主人公の体験を追体験するような作りで、誰でも感じる日常のほんのちょっとのことで本人でもコントロールできない状態に追い込まれていく怖さを感じる。
"なんだか分からない自分を見せるの、怖い"って気持ち、すごく分かる。

摂食障害に至る過程を克明に見せるので、正直ツラくなった。主人公に肉薄するようなカメラワークと演じる堀春菜の体当たりの演技せいで、見ているこちらが主人公と同化してしまうからだ。
見ているだけの自分がこんなにツラいんだから、実際に経験した監督は、まさに身を削るような思いでこの作品をつくったのだろう。

後半、ついに病院にいく決意をした聡子が偶然マキさんとう女性と知り合う場面は、物語のターニングポイントだ。
"分かんないけど、分かんなくていいじゃん'
'"雨の日の晴れ間ってありがたくていいな"
間違いなく生きづらさを抱えているマキさんのセリフは、どれもはっとさせられる。

「知る」ってことは大切なんだと思う。
戦争や、遠く離れた国の人の暮らしや、この作品のようにすぐそばにいながら全然知らないでいる友だちの苦しみや…今まで自分のなかに存在しなかったことが身近に感じられるようになる。
それは、映画の持つ大きな力のひとつだと思う。

見終わって、僕自身、摂食障害についてほとんど知らないことに気付かされた。
痩せていくのだから単純に食べられなくなるものだと思っていたら、主人公は異常なほど食べ、そして吐きまくる。
食べられないよりはるかにツラい。

家族との微妙な関係性を逃げずに描いているのも興味深い。特段問題があるわけではないけど、なんだかすれ違う、うまく伝えられない様子がリアルだった。

キャストやスタッフ全員が監督の想いを共有し、支えているのが映画を見ていても伝わってくる。

"頑張らないで欲しい。でも諦めないでほしい。"
主人公がある場面で絞り出すこの言葉は、自分自身にも、見ている全員にも向けられているように感じた。

舞台挨拶で塚田監督が言っていた「いろんな人がいるけど、"人がなにかを思っている"、それだけが大事。ということを伝えたい」という言葉が、今でもずしっと胸に残る。
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