アズマロルヴァケル

空(カラ)の味のアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

空(カラ)の味(2016年製作の映画)
3.8
かなりガツンと来るインディーズ映画

・感想

結論からすると、突っ込みたいところは少しあったんだけど、メッセージ性が高く、過激な描写がないのにも関わらず聡子の視点を鋭利かつ奥深く描けていてとても心に突き刺さる映画だと思いました。

要は一部のシーンを除いて摂食障害を起こした聡子が引き起こしてから直るまでのプロセスをリアルに描いてくれる。聡子の葛藤や苦悩も生々しく見せてくれるのでとてもエグいです。

監督である塚田万理奈さんの実体験を基にしたということもあり、ひとつひとつの描写がリアルで、グロテスクなシーンがないのに精神的に辛いと思わせるシーンがふんだんにありました。聡子が親に見られないように口に菓子パンをくわえた状態で母親に背中を向けながら応対するシーンだったり、友達に露見されないように聡子が布団に隠れてバターサブレを食べるシーン、そして家族会議で独白のように聡子が「家族とか言って気持ち悪い。」とこぼすシーンなど聡子を演じた堀春菜の熱演と相まって安定した完成度を保っていました。堀春菜はせっかくこの映画でいい仕事をしているのに某学園ドラマ(『3年A組』とか『チア☆ダン』とか)になんで出演してないんだろうと思うと勿体無いです。

その一方、松井薫平演じる聡子の兄である敬太のキャラクターがいいです。いつもは母親である慶子が毎週のように作るグラタンを喜んで食べる浪人生なんだけど、家族会議のシーンで唯一聡子を思って男泣きしていたのはかなりいい味出していました。

けど、後半で事実上本題でもある聡子とマキとの交流が主軸になってから「あれ、結局どうなったんだろう?」と思わず首を傾げたくなりそうになりました。

特に聡子を自分の家に泊まらせた友人のかなえの描写は前半ではあるんだけど、後半でマキや母親が出るのにかなえはなぜ出ないんだろうと思ってなりませんでした。多分、聡子とかなえはもう縁を切ったのではないかかなぁ?と察したのですが、もし後半でかなえとの関係性があのあとどうなったかを台詞で説明してくれないと個人的には凄く戸惑ってなりませんでした。

それと、中盤でお面を着けた聡子が踊るシーンやラストで川の中を漂う聡子が遊歩道を歩くマキに伝えたかったことを伝えるシーンは好みが分かれると思いました。良く言えば意味の深い表現、悪く言えば製作者にしか分からないような独特な表現という感じで、特にラストは現実と妄想の区別がつきにくく、時系列もどうなっているのか分かりにくいような構成だったので初見で観たときは理解しにくかった印象がありました。

それでも劇中でちょっと台詞が聞き取りにくいところがあったりしましたが、エンドロールで挿入されているマキの音声を聞いて「終わり良ければすべて良し」とも思えました。万人受けはできない映画かもしれないけど、観る人によっては必ず心を揺さぶらせてくれる映画だと私は思います。