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サマーフィーリングのMaUのレビュー・感想・評価

サマーフィーリング(2016年製作の映画)
3.9
それぞれにとって大切な存在の突然の喪失。それぞれはその思いを胸に、どうやってそれを受けとめ、再び前を向くのか。説明も劇的なストーリーもない。そこにはただ、向かい合う人々のそれぞれが切りとられるだけ。でもそれがとてつもない余韻になって心に降り積もっていく。

ミカエル・アースの「アマンダと僕」を見て、この監督の感性が好きだと思った。理由はない。多くを説明しないが、重ねていく丁寧で美しい描写に感じる多くの余白。その感覚がとても好きだった。それだけ。そしてこの作品を知る。映画館での鑑賞は逃したので残念だったけど、観てよかったし、やはりどうやら私はミカエルが好きらしい…

何の変哲もないパートナーのいる女性のベルリンでの一日が始まる。そして突然彼女は死を迎える。その後は淡々と喪失にまつわる周辺の人々の暮らしが重ねられていく。直後のベルリンのパートナー。翌年のパリでの彼女の妹。そしてさらに時が経ったのちのニューヨークでの彼ら。説明は少なく、人づてに誰かの身内の話を時折少しだけ聞いているような情報量だけど、彼女が確かに生きていたこと、周りの人の中に存在し続けていることはかいま見える。そしてもう一つ、時間がかかりながら、彼女の周りの人たちはそれぞれのきっかけを得て、それぞれに前を向いていく、ということ。それが断続的な経過で示される。テーマはとても普遍的だけど、描写は美しくて丁寧で品がいい。それがラストにはとても温かい余韻を残していく。大好きだ。

ミカエルは「アマンダと僕」でも子供の使い方がとてもよかったけれど、今作もまた、彼女の妹の息子ニルスがとてもいい。ニルスのつたない絵も好きだけど、湖畔での影踏みとホテルでの「シャレード」みたいな追いかけっこが心に残る。ニルスにとっても、おばの喪失は間接的に大きく影響しているのだ。その中にあって、彼の無邪気さが本当に愛しく思える。

人物がそれぞれにみな魅力的に描かれているけど、とにかく妹のゾエ(ニルスの母)がきれい。亡くなったサシャを思い出させる、とサシャのパートナーのローレンスも言っていたけど、だからこそゾエとローレンスには彼らだけのシンパシーがあり、でもそれは愛だけど野暮で下衆なものではない。この距離感が切なくて、でもそれでよかった。品がいい。私はきっと、多くを説明せずに投げて委ねてくれるミカエルが、それでも子供が大好きな温かな繊細さを持ち、なにより品のいいミカエルが好きなんだ。彼の作品に惹かれている。次の作品も楽しみだな。
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