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マルモイ ことばあつめのMaUのレビュー・感想・評価

マルモイ ことばあつめ(2018年製作の映画)
3.6
このところ少しハングル(文字)を勉強している。一歩ふみこんでかなり読めるようになり、看板や表示を読むのが楽しい。今の私はまるでこの作品中のパンス(ユ・ヘジン)のような気分で、文字を得ていく彼の高揚感は手に取るように感じられた。でも、話はそんな幸せなものではなかったのだ。予習なしで観始めた私は韓国版「舟を編む。」のようなものだと思っていたので、あまりに重すぎる話だった。

1940年代初め、日本統治下の韓国。方言も含めて言葉を集め、朝鮮標準語を作り辞典にして残そうと奔走する人たちがいた。日本の統制は厳しさを増し、母国語の使用禁止と創氏改名が言い渡される。奔走の中心ジョンファン(ユン・ゲサン)はスリのパンスと出会い、なんとか厳しい監視をかいくぐり編纂をやり遂げようとするのだが…

言葉を奪い、改名を迫る。どちらも民族としての大切なアイデンティティだ。ストーリーはフィクションだがこの動きは事実。歴史の流れ、帝国主義の必然だと言い放ってしまえばそうなのかもしれない。でも後世の私たちはこの歴史を学び現実を直視する必要があるだろう。言葉を奪われることと文字の読めないパンスが文字を得ていく過程が重ねて示され、文字や言葉がどれだけその国の人々にとって大切な物なのかが焼きつけられる。紆余曲折の末、戦後に無事辞典は完成する。そこまでにどれだけの苦労と犠牲があったのか本当のところは計り知れないが、こうした創作から私たちは想像することをやめてはいけないと強く感じた。

鑑賞後に調べたら、「タクシー運転手」の脚本に携わったオム・ユナの初監督作品だそうだ。キャストが重厚で見たことある人ばかりだけど、やはりなんといってもパンスのユ・ヘジンはすごいな。私の好きな社会派作品にことごとく出演している気がする。あと、パンスの子供たちが愛らしくて心を持っていかれるし、ホットクやたんぽぽの語源が胸に刻まれたな。

作品のラスト「第二次世界大戦後、母国語を取り戻した唯一の国である」という字幕に胸がぎゅっとなった…
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