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怪物のMaUのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.8
怪物だーれだ。さて、怪物は誰だったのだろう。そもそもこれは怪物を探す話ではないけれど。

大きな湖を臨む街。穏やかな日常の中で人々は懸命に生きている。火事になったり学校で問題が起きたり、ある人には重大である人には他人事の出来事が流れていく。そんなさなかに大型の台風がやってきて、その街の少年が二人いなくなってしまう…

視点を変えて時間軸を行き来する脚本が見事に編まれていた。まるで日本映画らしからぬ作り。仏で評価されるのは必然という気がした。

火事の後、担任(瑛太)による暴力が起こり、学校に乗り込んでいく母(安藤サクラ)。このあたりはさながらスリービルボード。そうか、そんな話なのか、と思いきや次は担任目線のサイドB。見ている私達の心にも偏りがあることを思い知らされる。

真実は一つ。でも、あの日の火事のように、野次馬として見ている人にとってそれはまさに「対岸の火事」。そこにある真実などどうでもよく、自分が安心するストーリーをほしがる。無責任な噂が独り歩きする。決定的な悪意は誰にもない。でも、誰も訂正しない。誰も検証しない。誰の心にもその無責任な怪物は潜んでいる。

そして最後に真実が上書きされる。関わったすべての人が一部は見えていて全ては見えていなかったことが浮き彫りになる。見せたくなかったこと、知られたくなかったこと。だからわからなかったこと。こんなことは私達の周りにも溢れ埋もれているのではないだろうか。

脚本は素晴らしく複雑で、多面的な世の中をうまく表現していたと思う。一つ一つの台詞のさり気なさや毒も好きだった。坂元さんの脚本構成はさすがだし、これはあらためてシナリオを読みたい。是枝監督の映像の美しさもディレクションのよさも坂本龍一の音楽も効果的。キャストは子役も含めて素晴らしいけどこの作品はやはり瑛太に尽きる。この人の多層的な趣きに私達は自分の浅はかさを思い知らされる。この担任はキャストありきである意味当て書きだったと後で知り納得。彼だからできたし、彼でなければこうは見えなかったと思う。

ラストには様々な解釈があるだろうけど、それぞれに委ねられたこの形は嫌いではない。それも含め、鑑賞後に語りたくなる人は多いと思う。あと、賞をもらったポイントについて、あまり深掘りすることに意味はない気がした。揺らぎだったとしても展開は変わらない。一方的にそういうジャンルだとくくることも意味がない。

ネタバレになるので多くを残せないが、私が気になったキーワード。火事の原因。車の中の母と息子の会話。担任の密かな趣味。校長(田中裕子)のスーパーでの言動。担任の恋人(高畑充希)。少年の父(中村獅童)が息子にかけていた言葉。隣の女子と猫…
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