そのじつ

サスペリアのそのじつのネタバレレビュー・内容・結末

サスペリア(2018年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

おもしろ…いとは言い切れないけど、好きな映画だった。

なんだかホラー映画というより、運命で惹きあった相手と出会う物語を見たような後口。邪神には違いないのだろうけど、それはキリスト教以前の地母神のような存在感。

そんな怖くて慈愛に満ちた存在が幕引きをするのだから、後味が悪い訳がない。
この「悪を制した」感覚も原作どおりだと感じる。
原作のあの、少女が最後の1秒で浮かべた微笑からこの物語が生まれたのかと思うと、作者の強力な「サスペリア」愛と妄想パワーにニヤけてしまう。

そしてサイドストーリーとして伴走していた精神科医と行方不明の妻の結末も、大いなる慈悲の手「忘却」が心の安寧をもたらす。
あらためて考えさせられる。
ドイツの人々の背負った十字架を。どれだけ時が経とうとも忘れ去られる事のない黒い烙印を負う宿命を。
精神科医は加害者であり被害者でもあった。許しを乞いながら深く傷ついている姿が痛々しい。

そういえば言葉、二カ国語を話しているようだったが、東西に分かれていても公用語はドイツ語じゃなかったのかな?アマプラは吹き替え版のみだったので、みんなが何語を喋っているのかもひとつハッキリしない感じで見終わった。

さておき。
初めの犠牲者の惨たらしく傷つく有様と、素晴らしいパフォーマンスを見せるスージーの動きが恐ろしくシンクロしていく様がすごい。ゾクゾクする。もうやめてくれ!と耐えきれず目を塞ぎたくなる頃にちょうど終わるタイミングも。残酷さMAXを冒頭に持ってくる構成は原作にならったか。

原作オマージュは音楽にも。強い呼気の音の重なり。悩ましげにまた切羽詰まって物語を追い立てていく。
オープニングとエンディングにかかるテーマソングがかなり好みで参った。
曲とともに映されていくスージーの生家の数々のカットも魅力的でコレクションしたいくらい好き。
クライマックスの血みどろサバトの背景に流れるララバイ(?)もステキ。

またキャストも魅力敵だった。
ティルダ・スウィントンのバレエ団カリスマ振り付け師役は自分がこれまで見た中で一番ハマっていた。
陶磁器の人形のような質感のお顔は尊さに満ちている。

彼女と強い子弟関係になっていくスージーは、角ばった顎と意志の強そうな眼の包容力ある顔をしていて好対照。
原作と違い、彼女がつねに落ち着いているので、観客もそれほど揺れずに見られる。

というわけで、ショッキング映像はなかなかのものだが、ホラーのように神経を傷つけられず見ることが出来て良かったかも。満足です。またしばらくしたら見たくなりそうな気がする。

「ミッドサマー」でモヤッとして、旧「サスペリア」で疲れ過ぎ、新「サスペリア」でやっとちょうどいい着地点を得られた。感謝。

追記)
観賞当夜は奇妙で怖い夢を見た。怖いものが建物の奥から出てきて襲われるという予感に震えまくる夢。
翌日はご飯中も仕事中もずっと映画が頭から離れず。思ったより深くえぐられていたようです。
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