そのじつ

パトリシア・ハイスミスに恋してのそのじつのレビュー・感想・評価

3.8
ミステリ、クライム小説の作家として有名なハイスミスの日記とアイデアノートが彼女の死後公開され(出版も)そこからドキュメンタリーを撮ろうと思い立った・・そんな監督の素朴なモノローグから始まる。インタビューに答えているハイスミスの元カノたち(!)は公開時には故人になっている方もいて貴重なものとなっている。

『フクロウの叫び』と『黒い天使の目の前で』しか読んでいなかった私。
人間の美しい部分とよくない部分が運命に翻弄されなぜか望まぬ結末を迎える、そんなものが彼女の作風だし、人嫌いなんじゃないかと思っていた。

映画を見たらそんな印象が180度変わってしまった。
風変わりなアイデア、それが小説家としての彼女の天賦の才。
そしてひとを情熱的に愛するのもまた彼女の才能だったのだ。
驚くほど熱狂的に愛し、傷つき、また出会いを繰り返す。
多くの出会いと別れを晩年まで繰り返した彼女。

どうだ!といわんばかりの若き日のハイスミスの美貌!
老年期の松本清張ばりのルックスしか知らなかったのでビックリした。
そりゃあどこ行ってもモテモテですわ。

家族との縁が薄く、他者と濃厚な関係を築いた生涯。
遺作となった『スモールgの夜』を映画のあとに読んだ。
『キャロル』以外の同性愛を扱った小説。
そしてハッピーエンドの小説。
終焉の地スイスが舞台。若き日の著者自身を反映したような人物がいて、少し自伝を読むような気分になってしまった。
死後出版されたこの本の最後の一行を、映画で引用して締め括っている。
波乱万丈の人生に寄り添った1時間半、すこし心が安らぐラストになった。
そのじつ

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