emily

彼女がその名を知らない鳥たちのemilyのレビュー・感想・評価

4.1
下品かつお金も地位もない15歳も年上の陣治と暮らす十和子は、8年前に別れた黒崎の事を忘れられないでいた。陣治に嫌悪感を持ちながらも彼の稼ぎで暮らし、クレーマーで日々の苛立ちを発散していた。そんなある日黒崎に似た水島と出会い、たちまち体の関係に発展していく。そんな頃刑事から黒崎は行方不明になってる事を聞かされる。執拗なまでに陣治は十和子をつけまわし、一日に何度も電話してきてストーカー的行為に発展していくが・・

 抜群の配役、体当たりの演技。誰もが自分勝手で、誰にも感情移入できず、だれも好きになれない。そんな人たちが繰り広げられるドラマは最後に大きな愛を残していく。一見いい人に見える陣治だが、その風貌は薄汚れていて不潔で、そして自分の感情だけを押し付けてくるやはり自分勝手な男である。十和子を演じる蒼井優は好きな男の前では乙女な顔になり、陣治の前、クレームしているときとコロコロと表情を変え、さらに度重なるラブシーンで見事な演技を見せてくれる。

 物語は黒崎が失踪していることを知らされてから、徐々に徐々に違う方向へ進み始める。陣治の行動の全てが謎に映り、張り詰められた伏線を追いながら徐々に徐々に真相へ迫っていく。黒崎を演じる松坂桃李の能面な演技も素晴らしい。感情の通ってない棒読み的なセリフ、ラブシーンもねっとりと見ごたえがある。十和子側で物語は進み、彼女の目線に寄り添い、その隙間に真実の愛を見ていく。そして最後は壮大すぎる愛で幕を閉じていくのだ。

 愛された女と、愛した男。十和子は愛を求め続け、何度も裏切られ、それでも同じことを繰り返していた。恰好に捉われ、自分の気持ちをぶつけてきた。しかし彼女の傍にあった大きな愛に気が付かない。結局一番大事な物はいつだってすぐ近くにあって、失う側面にならないと人は気が付かない物である。すべての伏線が終着したとき、解き放たれたように感動の渦に包み込まれる。愛するとは相手の幸せをどれだけ思えるかである。陣治の取った行動のすべてに愛が溢れている。こんなに誰かを愛し、そして誰かに愛される事の幸せ。たとえそれゆえの悲しい結末であっても、誰かを愛することの幸せには変えられない。
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