ikumura

バトル・オブ・ザ・セクシーズのikumuraのレビュー・感想・評価

3.6
70年代、テニス界における女性差別と戦って女子テニス協会まで立ち上げた女王ビリージーンキングが、ギャンブル漬けの初老の元男子チャンピオン、ボビーリグスに戦いを挑まれて「世紀の一戦」に臨む、という実話に基づく作品。不遇の人生から一発逆転を賭けてとにかく注目を浴びたいボビーに乗せられて、マスコミや群衆がこの試合を盛り上げるのだが、これがいかにも醜悪で、「あー40年で世の中はこんなに変わったのか」と思うと同時に、自分も知らないうちに同じことをやってるのかも、と思って戦慄が走る。ちょっとボビーに同情的過ぎるようにも思ったけど、この悪意のない社会の差別意識、それを変えていこうとするビリージーンキングの戦いこそが映画の描きたかった点だろう。本人もインタビューなどで語っているけど、この試合にスポーツとしての価値はなく、野次馬根性だけの観客の前でテニスに真摯に取組み、プロフェッショナリズムを見せつけなければならない孤独さが観ていて辛くなるし、カタルシスもだいぶ削がれる。そこにこそ意味があるんだろうけど。そして、彼女は同性愛者でもあって後にカミングアウトしLGBTの権利のために戦うんだけど、この映画の時点では世間からの逆風、さらには女子テニス協会への影響を恐れて隠し通さざるを得ない、その苦悩も感じられる。

制作者も少なくとも企画の時点ではトランプが大統領になるとおもってなかっただろうけど、まさにタイムリーであるし、Hidden Figuresなどとならんで、ほんとうに「ポスト・オバマ映画」というジャンルができるんじゃないかなあ、という勢いで同時代性のある作品が次々に出ている気がする。
ikumura

ikumura