グラッデン

ビジランテのグラッデンのレビュー・感想・評価

ビジランテ(2017年製作の映画)
4.0
日本ならではのノワールを描いた見応えのある作品でした。

日本映画に目を通すと、都市部の喧騒から離れた地方=田舎が舞台になることは非常に多い。昔ながらのシリーズ作品における道中記はもちろん、近年の青春を謳歌する若者たちが絆を深め、あるいは部活動に燃える姿を映す舞台として、田園風景が垣間見える「日本らしい」風景が見える場所として機能していると思います。これは、外部から束縛されない、どこか自由な雰囲気を表現するうえで、無機質なビル群や交通量の多い道路が見える都市部とは対照的な立ち位置として重宝されていると考察することができます。

一方、埼玉県の田舎町を舞台とした本作を通じて、自分は何を感じたのかと言えば、行き場のない閉塞感でした。旧来的な権力構図の延長線上にある政治、コミュニティに対する不寛容さと軋轢、行き場のない若者が見誤る「正義」の在り方等、息苦しさが蔓延しています。しかしながら、様々な作品世界において理想的にも描かれる田舎町が抱える現実を映し出してくれたようにも思えます。

私見ではありますが、フィルムノワールは作られた場所・時代を映し出す鏡のような役割があるものと考えています。その意味では、郊外が抱える閉塞感を下地にして地縁的結合と血縁関係を絡めて描いた本作は、日本だからこそ作り出せる「闇」を色濃く描いた作品だと思います。

また、本作の中心となる三兄弟の存在も印象深かったです。簡単には型にハマらなかっただろう役柄を手探りだったのも、鑑賞する中で強く感じます。飛び出した田舎に数十年ぶりに舞い戻った長男・一郎は、存在そのものが異物といったところですが、大森南朋さんが多くを語ることなく、存在感だけで怪しさを醸し出していました。
一方、三男・三郎を演じた桐谷健太さんは、鑑賞前に一読した役柄から想定し得ない重みのある演技をされていて驚きました。体当たりの演技を含めて、作品におけるノワールに深みを与えていたと思います。
そして、鈴木浩介さん演じる次男・二郎は、長男と三男、あるいは市政の権力構造の中で板挟みになっていく苦しさを表現すると同時に、彼を制する、篠田麻里子さん演じる妻・美希の存在感が際立ちました。簡単に言えば悪女ともいうことができる美希ですが、やはり多くを語ることなく、1つ1つの行動や言葉の中で夫との立ち位置を明らかにする役作りが素晴らしかったと思います。

地域が抱える閉塞感、若者を通じて描いた偏見・不寛容さを見るとリアルタイムな事象を取り扱っていると思うだけに、今見るべき作品と強く感じる作品でした。