回想シーンでご飯3杯いける

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

2.2
首相に就任したばかりのウィンストン・チャーチルを主人公に、第二次世界大戦中の激動の時代を描いた作品。主演はゲイリー・オールドマンで、彼専属で起用された辻一弘による特殊メイクが第90回アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した事もニュースになった。

ナチスドイツの勢力が拡大し、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた時期で、クリストファー・ノーランが描いた「ダンケルク」の脱出劇を政治側から描いた作品でもある。まず、何と言っても、先に書いた特殊メイクと、ゲイリー・オールドマンの狂気溢れる演技に圧倒される。また、彼の秘書である女性を脇に配置し、チャーチルの発言をタイプし復唱させる事で、彼の独裁的な一面を際立たせ、中盤に於いては彼が部下や国民に寄り添うように変化する伏線として機能させている。

アカデミー賞を筆頭に世界中の映画賞を受賞しているが、全て主演男優とメイク、美術に対する賞で、作品賞は1つも獲得していない。それもそのはずで、本作の後半には、チャーチルを英雄視させる意図的な脚色が散見される。実話映画と銘打った本作で、さも事実であるかのような脚色を加えるのは拙い。特に終盤の地下鉄のシーンは確かに感動的であるが、あまりに現実離れしている。以降のチャーチルが国民を奮い立たせる演説も、本作の流れで観れば感動的であるが、言い換えれば「国の為に死んでくれ」という独裁者の発想である。

戦争や政治を題材にした実話映画には、このような落とし穴が多く見受けられる。だから観る優先順位はいつも最後。本作も公開から時間を経てからのレビューとなった。