Masato

マッドバウンド 哀しき友情のMasatoのレビュー・感想・評価

3.5

差別からは逃れられない

第二次大戦前後の小作人の黒人家族と地主の白人家族の差別と友情を描くドラマ

終盤あたりは最高に良かったが、それ以外があまり良くなかった。副題は誰かが勝手につけたものではあるが、帰還兵同士の友情を主題としているのか、家族全体を主題としているのか。テーマが散漫としていた印象。そのせいで、前半はテーマに結びつくシーンまでが無駄に長く感じた。前半を程よく端折ったほうが良かったのではないかと思う。また、モノローグが多すぎるのではないかと思った。アフレコで語らせるのではなく、キャストの演技と演出で描写してほしかった。映画である必要性が薄くなってしまう。

この手の映画はかなり多く、バースオブネーションや、それでも夜は明けるなどのほうが作品の出来としては良かった。そうした比較対象がある中で、本作はやや弱かった。

だが、兵士と家族の戦争に対するイメージの齟齬は印象的だった。これは第一次世界大戦のドキュメンタリーである、「彼らは生きていた」でもそうだったが、戦いから帰れば、PTSDと失業で相当地獄だったそう。第二次世界大戦後も同じだっただろう。田舎の農家と黒人なら尚更だ。

戦争の兵器は日に日に強力になっている。アメリカの諸戦争から第一次世界大戦では、機関銃、毒ガス、戦車の投入で悲惨さが増した。第二次世界大戦では、原爆や爆撃機などさらに残酷になった。もはや、戦争に行ったものにしかその地獄は味わえない。経験していないものが想像しよつも無駄な世界だった。当時、PTSDは戦意喪失を避けるために病状は隠されていたから、家族が理解を示せないのも少しは分かるが。

こうした中で、唯一心の傷を共有できるのは同じ兵士だった人間だけ。そうして、白人と黒人の友情が結ばれる。話せばただの人間。ごく単純なことなのに、それが理解できない。時代は差別の時代。南部かつミシシッピ。軋轢の歴史が襲いかかってくる。

やるせない話だった。今これを映画化しようとするのは、やはりアメリカが分断の社会へと変化しつつあるからであると思う。特定の類型化による差別と排除は、生きることも、友情も引きちぎってしまい、やがて自分にも意図せずふりかかってくる。

いまはこんな時代で良かった。まだ、声を上げれるだけでマシだろう。
Masato

Masato