emily

勝手にふるえてろのemilyのレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.5
 同僚から告白され、はじめての告白に舞い上がるOLのヨシカ。彼の事は「二」と名付けている。しかしヨシカには中学時代から思いを寄せてるイチが居る。私には二人の彼氏がいる。イチは裏切れない。そんなときストーブが燃えて火事になり危うく死にかける。死を目前にして、やっぱりイチにどんな形でも会いたいと思い、偽名を使って同窓会を計画し、イチと再会する・・・

 今のヨシカ。経理の仕事をバリバリこなし、イチのことをずっと思い続けてる。脳内片思いを"片思いフレンド"に話していく。お隣の”オカリナ”さんとか釣りをしてるおじさんとか。個性豊かな面子、豪華な俳優勢が脇を固め、ヨシカの”脳内恋愛”を盛り立てていく。ヨシカの日常をしっかり映す。仕事と家の往復、アンモナイトの化石、ヘッドフォンから流れる音楽に身を包み、違う場所に”現実”を作り上げる日々。ベッドに体を預ければすぐに脳内トリップ。中学時代の幸せだった時間。イチとの時間にどっぷりと自分を置けるのだ。

 音楽が目間苦しく変動するヨシカの心情に寄り添い、大げさなまでの音の効果が彼女の”世界”をよりリアルに壮大な物へシフトさせていく。ヨシカを演じる松岡茉優がクルクル変わる表情を見せ、声のトーンも表情も目間苦しく変わり、何でもない日常を皮肉に煌びやかに、そしてその痛さに笑いを感じながらも、ズーンと胸にかさぶたを残していく。他人事と思ってみていたのに、気が付いたらそこには全部自分がいるみたいな、最後にはヨシカが他人事に思えなくなってくるから不思議。


 終盤はミュージカル調になりネタバレする。その唐突な演出に、今まで笑ってた物が全部翻され、画面に食い入る。彼女の切なさ、願望、自分の存在。脳内恋愛は自分が傷つくことはない。現実の恋愛はドロドロしてて常に痛みと背中合わせで、それでも好きになれば一瞬の幸せが永遠になるものだ。誰かを知る事、誰かを深く知る事はそのまま自分の存在へと繋がっていく。誰しも一人では生きられない。誰しも世界と何らかの形で繋がっている。現実はいつだってほろ苦い。しかしそこに向き合わないと幸せだって見る事が出来ない。前に進むことができない。

 前半のコメディタッチからシフトしていく終盤にかけての痛み。まとまりがないようで、ラストにはしっくりリアル恋愛の痛みをたたきつけてくる。浮世離れしてるように思えて、しっかり今のネット社会の私達へのメッセージを残してくれる。

 
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