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レディ・マクベスのSPNminacoのレビュー・感想・評価

レディ・マクベス(2016年製作の映画)
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シェイクスピア「マクベス」を下敷きにした小説原作。大まかな展開に沿いながら、自らが暴君となるマクベス夫人がアンチ・ヒーローみたいに見える。
裕福な商家に嫁いだキャサリンは「室内飼い」の犬同然だが命令に従わず与えられた餌ではなく食べたいものを食べ、主人不在の間に外へ出て、その領域を拡大。邪魔者を消し食卓では家長の座につき、やがて権力を手中に収めていく。
一方で、黒人の使用人は更に彼女に飼われた家畜扱いである。すべてを監視するアナは声を失い、寵愛され王座にそそのかされるセヴァスチャンは自由を失う。連鎖する支配抑圧の構造。キャサリンは自分がされたことを彼らにする。だがキャサリンの座を脅かす存在が現れると、彼女も従わざるを得ない。所詮どんなに力を得ても敵が立ち塞がり、キャサリンは孤独になるのだ。
ベッドで目覚める姿、ソファで正面を見据えた構図を繰り返すことで、このパワーゲームにも終わりがないと思わせる。一線を越え冷酷に罪を重ね欲望を叶えても、予め結婚という主従関係や家督相続がある限り女は自由になれない。おそらく今度こそ逃げられないだろうことを示唆して映画は幕を閉じる。いや、もしかしたら何とかしてしまうのかもしれないが…それでもその代償は大きいに違いない。
けど、マクベス原典と違って自ら手を下し、しかも恐怖や亡霊に怯えない若い女はそうでもしなければ何も得られないと腹が据わってる。味方などおらず、力で支配しきれないという現実も。孤高の悪を演じるフローレンス・ピューが堂々の貫禄。食べるというか貪る場面が多いのはこの頃から既に特徴的だな。
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