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ハートストーンのikumuraのレビュー・感想・評価

ハートストーン(2016年製作の映画)
3.6
【白夜のもつれ】
アイスランドの漁村を舞台に、思春期の親友男子二人を主人公にした映画。
日米ともアマプラに入ってるっぽいです。

チビでまだ体型も子供なソールと、ノッポでブロンド、美形なクリスチャン。
ソールもよく見ると整った顔なのだが。
子供たちで漁船の下に見つけた魚を釣り上げた時、
カサゴをみて「醜い、クリスチャンみたいだ」と他の子たちが言い、踏み潰す。
ダルビッシュも「ハーフでノッポ」だからといじめられた、と言ってた気がするが、
こうして人と違うことは初めから悪意の標的になる。
本人たちはその悪意にすら気付いていないが。

ソールは「まだ毛も生えてきとらんな・・・」と気にしてるくらいなのに性に興味津々。
というか「あんま」(©️太宰治)をして家族に見つかるとかお決まりなパターン。

というか、この漁村全体が、セックスとその噂話しか楽しみのないようなところ。
ソールもクリスチャンも親になにかしら問題があって、
家の中は何重もの意味で暗い。

二人で外の遊び場、あるいは牧場で過ごす時間の束の間の開放感。
しかし取り囲む山や顔を出す大人、いじめっ子たちが、
「この景色の向こう」はないんじゃないかという気にさせる。

こういう鬱屈した、俗っぽい世界が、アイスランドの自然もあって、
時々神話的に見えてくるのが不思議だが、実際ファンタジーってこういうところで生まれて、
そうやって想像力の中で聖なるものに昇華させるしかないのかな、とも思う。
(実際ソールの姉がそういうキャラ)
束の間の夏だけど寒そう、しかし慣れている子供たちは薄着だしソールは家の中だとブリーフ一丁、
白夜対策か閉め切った暗い家を出ると夜なのに外は明るい。
そして雪が夏の終わりを告げる。

二人のうち、一人は大人びた少女ベータ(彼女の行動がところどころでキーになるのが面白い)に興味を向け、もう一人は親友に対して抑えきれない感情を抱くように。
その噂も瞬く間に広がる。

ソールの姉は詩を書いたり絵を描いたりするのが好きで、
腐女子的な趣味からかもともと二人に化粧をさせてBLっぽい絵を描いていた。
しかしそれもあくまで消費する対象として同性愛を受け入れているだけで、
この村に彼の苦悩に寄り添える人は親友と母親しかいないのだろう。
LGBTQであればカミングアウトすればいいじゃん、普通に堂々と生きれば、と考えられがちだけど、
(最近日本でも、他人にバラされる「アウティング」の問題が話題になったりしている)
まずいわゆる「ストレート」であることで当たり前なことが当たり前にならない、
たとえば性的嗜好云々より前に目の前の彼がこんなにも好きなのに、
その好意をちゃんと示すことができない、という出発点からして違う。
しかし「ストレート」の側の人間は、多くの場合差別している意識も、彼らを跳ね除けている意識もない。
特に舞台のこの漁村からしてそうだし、
日本社会もそんな感じなのではないか、という気がする。
「プライド」パレードは、そういう社会自体を変えていこうというものだ。
しかし、社会からの「これが普通」というプレッシャーがある中で、
一方でからかいの対象にしながら、
すべての性的マイノリティに「堂々としろ、正直になれ」というのは残酷だ。

最後の展開は、子供たちの行動にまだ救いがあるということなのか。
重いけれど見てよかった、と思える映画でした。
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