そーいちろー

夜の浜辺でひとりのそーいちろーのレビュー・感想・評価

夜の浜辺でひとり(2016年製作の映画)
4.5
大好きで19/8/8にも観ていたようだが、改めて23/10/3に目黒シネマで観た。

とにかくこの映画はホン・サンス監督とキムミニの実際の出来事(不倫)が投影されつつ、彼女自身が様々な人や街を彷徨いながら、酒の力を借りて自己解放をし、自分を表現せんとする。キムミニの魅力に溢れているし、これ以降繰り返されるホン・サンスとキムミニの私映画的なアプローチのミニマリズム的展開とそのズレと差異、という魅力が発揮された作品である。

昨今のコンプライアンス、清い人間関係が尊ばれる中、この二人の関係性はその情勢の極北にある。小説家の映画でも生々しく映されたように、ホン・サンスがキム・ミニという天才的な蠱惑さを持ち合わせた女優を独占し、自身のフィルムの主役として自己満足的な映像を撮ることが、結果として今の時代に真の意味で顧みられることが減ってしまった「情愛」の存在をより明らかとしている。そのトーンは「豚が井戸に落ちた日」のような情念に満ちた映画作りとは異なり、どこか間が抜けつつ、しかし確かなセンスと自覚的な映画作りによって作られた映画となる。それゆえにキム・ミニの魂の解放のカタルシスがより伝わり、現代において純愛を貫くことの大き過ぎるリスクの存在へと気付かされるのだ。このような自動記述装置のような言説はいくらでも述べられるのだが、要するにスクリーンいっぱいに映る魅力的なキム・ミニの姿に素直に喜べればいいのだ。21世紀のアンナ・カリーナですね。
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