Bell

嘘を愛する女のBellのレビュー・感想・評価

嘘を愛する女(2018年製作の映画)
3.7
劇場で見た、短めの予告編では、サスペンステイストを感じた、この作品。
なので、松本清張の『ゼロの焦点』みたいなミステリーを勝手に想像していたのですが、見てみると、ミステリーやサスペンスではなくて、ヒューマンドラマって感じだったかな。

※ ※ ※ ※ ※

ヒロインの由加利は、研修医の小出と同棲して5年。
そろそろ、結婚を意識し、田舎から出て来た母親に、小出を紹介しようとします。
しかし、待ち合わせの時間になっても、小出は約束の場所に現れず・・・。彼女が帰宅しても、家には彼の姿はありませんでした。
そして、連絡が付かず心配していたところに、訪ねて来たのは、警察で。
小出は、くも膜下出血で倒れているところを緊急搬送され、今も意識不明・・・と告げられるのでした。
更に、彼の身元を示す免許証が偽装されたもので、住所以外は、名前も何もかもデタラメだったことが分かります。
念のために、彼の勤務先の病院を訪ねるものの、そのような研修医は存在しないとのこと。

意識不明の状態が続く小出。
両親は既に亡くなっていて、親戚とも疎遠・・・と言っていたことを、全て信じていた由加利は、彼が、一体、何者なのか知る手立てが全くありません。

こうして彼女は、私立探偵を雇い、彼らと一緒に、自分が今まで「小出」だと信じていた恋人の真実を突き止める調査に乗り出すのでした・・・。


というのが、あらすじです。

5年間も一緒に暮らしていた恋人が、実は、偽名で、経歴や、勤務先も全部嘘で・・・って、想像してみると、めちゃめちゃ怖いですよね。
やはり、真っ先に思い浮かんでしまうのは、犯罪絡みの人間なのではないか?っていうことだと思います。
なので、予告編の印象から、サスペンスかなぁと思っていたのですが。

確かに、身元を偽装していた恋人と暮らしていた・・・っていうお話なので、サスペンスといえば、サスペンスなのかもしれませんが、どちらかというと、ヒューマンドラマやラブストーリーかなぁって感じでした。
そして、ヒロイン・由加利の、一人の女性としての成長の物語でもあるのかなぁって。


正直、私、ヒロインの由加利のことは、最初は好きではなかったのです。

彼女は、バリバリと働くキャリアウーマンで、もちろん、努力も人一倍してるし、それは素晴らしいことだし素敵なことだと思うのですが。
なんというか、仕事中心、自分中心・・・って感じで。

同棲している小出のことも、本当に、真剣に向き合っていないようにも見えました。

一緒に住んでる恋人が居ながら、合コンに行って、ベロベロに酔っぱらって帰ってきたり。
見得っぱりなところがあって、同僚にも、彼のことを「研修医だから、バイトくらいの稼ぎしかないのよ~」って言ったてたり。
家事のことなんかも、彼に丸任せって感じでしたし。

なんというか、一昔前の(現代でも居るのでしょうが)、「俺が稼いでるんだから、何をしたって許されるんだ!」って考えてるような仕事男みたいな感じで、嫌だなぁって。

同棲してて、稼ぐ額に差があり過ぎるから~なのかもしれませんが、二人が対等な恋人同士ではないようで。どちらかというと、彼女が彼を「住まわせてあげてる感」っていうのが見え隠れしてて。

もちろん、本当に愛していたのだとは思いますが、あまりに仕事が大変過ぎて、仕事と自分のことしか見えてなかったのかもしれませんが。

なので、彼が倒れ、意識不明の状態になって初めて、彼の嘘に気付いた時も、ショックというより、プライドを傷つけられたって感情の方が大きかったのかもしれないなぁって。
それで、意地になって、高い調査料を払ってでも、彼の真相を知ろうとするのですよね。

でも、そのバイタリティーと執念があったからこそ、彼女は、少しずつ少しずつ、真相のパズルのピースをひとつひとつ見つけて行くことが出来るわけですが。

そして、そのピース、ひとつひとつを集めて行く内に、今までは見過ごして来た彼との会話、彼の想いなどに気付いていき。
自分が本当に彼を愛していたことに気が付いていくのです。

その過程が、とても良かったと思います。

小出が密かに書き綴っていた私小説の舞台が瀬戸内である、ということだけを手かがりに、探偵の海原と共に、瀬戸内を巡る旅をする訳ですが。

立ち寄る先、立ち寄る先で、少しずつ、小出の過去の姿が見え隠れしていく展開はドキドキしました。
でも、それと同時に、ちょっと間延びして、退屈でもあったかな?

そして、小さな糸を手繰り寄せ、手繰り寄せ、やっと、辿り着いた先に・・・全くの人違いだった!!っていう展開には、ちょっと、「今までの緊張感は何だったの(>_<)」という気持ちにはなりましたが。

でもでも、そこから、一気に物語は展開し、あまりにもあっけなく、小出の身元は明らかになるのですよね。

・・・てか、瀬戸内を実際に回っていくより、彼のパソコンのパスワードの日付と瀬戸内での事件とかを検索した方が、早くてラクだったのでは?と内心ツッコミを入れたのはナイショの話です(^m^)笑

こうして手に入れた真実は、あまりにもショッキングで。。。
あんなに苦労してまで調べて、良かったのか・・・とさえ思うのですが。でも、その真相に辿り着いたからこそ、身元を偽ってはいたけれども、今、小出が由加利のことを本当に愛していたことが分かったのですし。なので、この旅は、決して、無駄ではなかったのでしょう。

そして、思ったのが。
もちろん、仕事も、とても大切ですが、あまりにわき目もふらず仕事のみにのめり込んでいくと、自己中心的になってしまい、本当に大切なものを失ってしまう・・・ということでした。

小出の過去は、優秀な外科医。
学会やら研修やらで、殆ど家に居らず、その所為で、彼の奥さんは、幼い子供と無理心中をしてしまうのです。
それが、彼が失踪し、偽名を使って、東京に出てきたきっかけ。。。。

彼は、仕事にのめり込むあまり、本当に一番大切な自分の家族にちゃんと目を向けず、そして、失くしてしまった。取り返しのつかない事態になってしまった。

一方、今の由加利も、過去の小出に近い物がありましたよね。
だからこそ、小出が隠し事をしていることにも気が付かなかったし、彼が意識不明になって初めて、本当の彼の愛に気付いたのですよね。
小出と違い、彼女は、まだ彼が意識不明とはいえ生きている分、取り返しがつかないという状況ではないのかもしれませんが・・・。

由加利の表情や言葉が、映画の最初の頃とラストでは随分変わったなぁって印象を受けたのですが、それは、やっぱり、本当の愛、本当に大切なものに気が付いたからなのだと思いました。

夫婦でも、恋人でも、家族でも、友人でも。
傍にいるのが当たり前、好きでいてくれるのが当たり前、って勝手に思ってしまって、忙しさなどにかまけて、ちゃんと相手を思いやらないことって、往々にしてあるのではないかなぁと思います。
でも、どんなに忙しくても、大切な人に対しては、ちゃんと向き合わないとダメなんだなぁ、取り返しがつかなくなってしまってからでは遅いのだ、と、映画を見ていてヒシヒシと感じました。

私も気を付けたいです。
Bell

Bell