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永遠のジャンゴのtanayukiのレビュー・感想・評価

永遠のジャンゴ(2017年製作の映画)
3.7
UーNEXTでジャンゴを検索したら、本家のジャンゴ・ラインハルトが見放題ラインナップに入ってることに気づいて、さっそく鑑賞。邦題は「永遠の」がついているが、原題はいさぎよく「Django」のみ。

ジャンゴ・ラインハルトは放浪の民ロマ出身で、本名はジャン・バティスト・ラインハルト。ジャンゴはロマ語で「私は目覚める」という意味らしい。「音楽は知らん。音楽がおれを知っている」とうそぶくジャンゴはジャズに覚醒したが、映画では、ナチスの迫害を受ける同胞たちの姿を目の当たりにして、「自分は呼ばれればどこでも演奏する音楽家でもあるが、ロマでもある」というアイデンティティに目覚める様子が描かれている。

→『永遠のジャンゴ』 ジャズギターの名手、ナチと闘う : NIKKEI STYLE https://style.nikkei.com/article/DGXMZO23706000Q7A121C1000000?channel=ASH04003

コードを弾くだけの伴奏楽器にすぎなかったギターでアドリブ主体のソロを弾き、ジャズ・ギターの開祖と呼ばれるチャーリー・クリスチャンがベニー・グッドマン楽団に入団(1939-41年)してその名を知られるよりはるか前の、1920年代後半から、ジャンゴはギターソロを含んだ演奏をおこなっていて、1935年には盟友ステファン・グラッペリとフランス・ホット・クラブ五重奏団を結成、ロマ音楽とジャズを融合させたジプシー・ジャズで大人気となり、ヨーロッパツアーも成功させている。ジャンゴが「ジャズ・ギターの開祖」と呼ばれないのは、単にジャンゴの音楽がアメリカに紹介されたのが1940年代半ばのことで、チャーリー・クリスチャンの死後だったから。実質的には、ジャンゴこそが開祖の名にふさわしい。

映画のハイライトは、「黒人音楽のブルースは禁止」「音量は控えめにして食事のジャマはしない」「テンポの速い曲もダメ」「シンコペーションは5%以下」「ソロは5秒以内」という制約だらけのレマン湖のほとりのナチスの晩餐会で演奏するシーン。当初は相手のムチャな要求どおりにおとなしく演奏していたジャンゴだが、代表曲「マイナー・スウィング」が始まると、そんな約束は最初からなかったとばかりに、その演奏はしだいに熱をおび、やがてドイツ人たちを熱狂の渦に取り込んでいく。その裏では……というのは映画を見てのお楽しみ。

ロマ音楽は濃厚でコテコテの感情表現(ゆっくりパート)と陽気で急速調の超絶技巧(ダンスパート)が交互に入れ代わり立ち代わり現れる形式で知られ、クラシック音楽にも大きな影響を残している。

モンティの「チャルダッシュ(チャールダーシュ)」はロマの民族舞踏がもとになっているし、ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」もチャルダッシュから来ている。ラヴェルの「ツィガーヌ」はフランス語でロマ人を指す言葉だし、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」はドイツ語で「ロマ(ツィゴイネル)の旋律」を意味している。リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」はトムとジェリーの「ピアノコンサート」でも演奏されていた。どれも、聞けば「ああ、例のアレか」とわかるくらい耳に馴染んだ音楽だ。

そういえば、大好きなフランス映画「オーケストラ!(原題Le Concert)」でも、ロマのヴァイオリン弾きワシーリーが大活躍してたね。ボリショイ交響楽団の天才指揮者として名声をほしいままにしていたアンドレイ・フィリポフの演奏を途中で中断させた共産党員イヴァン・ガヴリーロフの冷酷無比な姿が、ジャンゴの演奏を途中で無理やり止めたナチスの士官に重なる。政治やイデオロギーで人間の自由な活動を抑圧する連中はみんなムッツリしてて、どこか似たような顔をしてるな!💢

△2023/03/31 U-NEXT鑑賞。スコア3.7
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