【声】
アマゾンの秘境から連れてこられた未知の生命体。
言葉を話すことの出来ない掃除婦の女性。
会社からリストラされ話し相手すらいない初老の紳士・・・。
この映画に描かれるのは「社会的な発言力という意味での『言葉』」を持たない、いわばマイノリティのような存在の声なき声。
どうしてもアカデミー賞作品賞を獲った作品という事が、良くも悪くも感想に影響してしまうのは否めない。
全体的には2部構成から成るダークトーンの寓話のようなお話。
設定はとても好きです。特に政府の秘密機関のような「特殊な空間」で紡がれる不思議な出来事と、イライザの日常的なルーティーンを交互に織り交ぜることで、現実と虚構の狭間のような不思議な空間が上手く描かれていました。
政府の機関で掃除婦として働くイライザは過去にトラウマがあって声を失っていた。恐らく首にある傷も何らかの関係があるのだろうということは想像するに難くない。
しかし、彼女自身はそのことをハンディとも不幸とも感じていなかった。意図的だとは思うけど、彼女のルーティーンの中に自慰行為のシーンを繰り返し入れたのも「彼女は普通の女性」という監督の暗喩的なものなんだろうなと感じた。
まぁこのシーンそのものをどう受け取るかは観た側に委ねられているけどね。
ある日、その秘密機関にトップシークレットのタンクが運び込まれてくる。何やら生物らしい。興味津々のイライザ。
しかし軍関係の人間の出入りもあって何やらキナ臭い匂いもプンプンと・・・。
そんなことはお構いなしと、イライザは少しずつその生命体に近づいていった。この辺のもどかしくも可愛らしい二人(?)のやりとりの描き方は好きだった。
伝えたいけど上手く伝えられないという、どこか「初恋」のようなぎこちなさが画面から伝わってきて、クリーチャーの表情すら可愛らしくみえてしまうのだ。
そう「みえちゃう」んです。はっきりと。
これってきっとギレルモ監督の作家性によるところなんだろうけどね、こういうクリーチャーを登場させる時って、かなりはっきりビジュアルを提示してくるよね。ガッツリと。
実はその辺に一種の「萎え」を感じていた時期があって、パンズラビリンスは最後まで観れませんでした。
だから、若干「大丈夫かな・・・・」という不安があったのも事実。
結論から言えば、僕も少しだけ大人になったようで、今回の「謎の生命体」のビジュアルが「バ~ン!」と出された時も、ある種言葉を超えた理解というものを表現するためのディフォルメされた存在的なキャラクターとして登場させてるんだなと。
メタファーっていうほど含みを持たせたキャラクターでもなかったしね。
そこを受け入れたうえでの秘密機関での「密会」は面白かった。というより「この映画好きだわ」と思って観ていた。
・・・・ただ、何かのタイミングから雲行きが怪しくなる。
(あぁヤバい、期待値上げすぎた時にたまに来るアレだ)
このテイスト好きなんです。観たいと思って観てるんです。思いがけずサリー・ホーキンスのヌードシーンも満載で目がハートマークにもなってたんです(笑)。だけど、心のどこかで(面白いだろ?そりゃそうだよ、だってアカデミー賞受賞作品なんだもん。面白くないはずがないだろ?)と、自分の気持ちに関係なく囁いている自分がいたんです。
このまま、他の皆さんの絶賛の拍手の中を一人だけ寂しく歩いて帰ることになるのかな・・・と、悲しみにも似た感じ。
多分、この辺の感覚が絶頂だったのが、イライザが唯一声を発したミュージカル調のシーンでした。恐らくこの辺りは劇場で観ていた他の人はウルウルしていたポイントだったのでは・・・。
もうあそこに至っては「ダウンタウンのごっつええ感じ」で松ちゃんがやってた「半魚人のコント(産ませてよ~!って言いながら卵をポンポン産み落としていくっていう)」が頭の中をチラチラ・・・(あっち行け!)と自分の頭の中から必死に追い払う。
でもね・・・。イライザとクリーチャー(もうめんどくさいから以後半魚人という事で)が浴室で裸で抱き合ったあたりから、不思議と気持ちが映画に戻ったんです。
後半部分のサスペンスがメインのパートはテンポも良く徐々に雑念を遠くまで飛ばしてくれた。
そして切ないラスト・・・。
(よかった・・・ギリギリでストーリーに戻ってこれたおかげでこのラストに間に合った)
展開自体はベタだったかもしれない。でも映像が美しかった。
そうか、ラストシーンがあのカットなんだね。納得です。この映画を象徴するようなシーンだから。
車の色、パイの中身、キャンディの色や箱の色、水の色、イライザの衣装・・・
青とも緑ともつかない微妙で絶妙な色合い。
どこか全ての映像を絵画の世界のように魅せてしまう不思議な色。
これこそがデル・トロの世界観なのかもしれない。
手放しで満点が付けられなかったのは、多分「アカデミー賞」直後という雑念が邪魔したからなのかもしれない。
もう一度ゆっくり味わいたい。そしてもう一回デル・トロ監督に挑戦したい。