塚本

アナと雪の女王2の塚本のレビュー・感想・評価

アナと雪の女王2(2019年製作の映画)
4.0
ポリティカル・コレクトネスという概念に派生する言葉で「カルチュアル・アプロプリエーション」(文化盗用)という言葉をご存知でしょうか。。

この言葉の意味は、ディズニーがこれまで制作してきた作品を参照すれば、いちばん分かりやすいと思います。

物語を作って興収で儲ける…だけではなく、それぞれのキャラクターグッズの販売、ディズニー・ランドのアトラクションへの導入など…あらゆる分野の産業を包括する、アメリカを代表するメディア・コングロマリットがディズニーです。

そこで問題となるのがキリスト教圏外、西洋文化圏外の題材を扱っている場合なんです。

「アラジン」「ライオンキング」「ムーラン」「ポカホンタス」などが挙げられますが、問題は"文化の選択的使用"にあります。

緻密なマーケティング戦略に則って他文化、他民族の衣装を、目新しくて愛らしい装いをキャラクターグッズに施し、土着の音楽をキャッチーにアレンジして商品化していき、巨大な産業へと成長していったのがディズニーです。

ただ、そこには、それぞれの文化を学術的な時代考証を踏まえることなく、伝承・伝統の表層のみ…おいしい部分だけをつまみ食いする…ということで、まさしくこれは"文化盗用"以外のなにものでもないんですね。

さて「アナ雪」です。
 
「アナ雪」にも文化盗用はあったのでしょうか…。

「アナと雪の女王・1」の冒頭、フィヨルドで氷の採掘作業をする男たちの歌唱シーン。
これはサーミ人に古くから伝わる歌唱伝統の系譜に基づいた「ヨイク」と呼ばれる歌なんです。



サーミ人とはフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ロシアの4国にまたがる北部(ラップランド)に、まだゲルマン人に国境を引かれる前から、トナカイの放牧と鮭漁で暮らしていた先住民族なんです。
彼らは土地の所有という概念から外れて、円錐形のテントを持って行きたい所に渡り歩く遊牧民です。
国境を持たない民族としてはクルド人なんかが、それに当てはまりますね。
サーミ人は見た目がアジア系なので、昔はイヌイット(エスキモー)だと認識されていたんですが、その後の研究の結果、モンゴロイドとコーカソイド(ヨーロピアン)のハイブリッドで、イヌイットとは全く別の種族だと判明しました。

また、サーミ人は独自の道徳観、宗教観、死生観を持つ民族として、他とは一線を画す民族だということも判ってきました。

…近代化の波が押し寄せ、サーミ人が住まうラップ地方にも国境という名の線引きが為され、彼らは弾圧、そして差別の対象となってしまいます



「アナ雪・1」の冒頭の男たちはサーミ人…すなわち"ノーサルドラの民“であり、クリストフも同じくノーサルドラの人なんですね。
ただ、クリストフの外貌を見てみれば、まず彼は金髪です。そして目も青い…これはどう見てもゲルマン人(ヨーロピアン)です。
白人の有色人種に対するホワイト・ウォッシュ、、即ち文化盗用が行われているわけです(ただ、サーミ人には異人種婚による金髪、青い目の方も多くいるのも事実です)。

今回の「アナ雪・2」ではサーミ人の識者にスーパーバイズを仰いだ結果、学術的にも劇中におけるサーミ人(ノーサルドラ)の描写に、ほぼ間違いはないそうです。

そして「アナ雪・2」が持つテーマとは。
今作においては特に、物語の大筋が「過去の過ちを正すこと」に主軸を置いていることからもその本気度を感じられます。

「過去の過ち」とは前作の「アナ雪・1」だけに限ったものではありません。
これまで他文化を産業化してきた「ディズニー映画」の贖罪の作品でもあるんです。


「アナ雪・2」において、ディズニーはどのように過ちを認識し、正しい一歩を踏み出したのでしょうか。
それは本作に出てくる「ダム」を巡る描写にあります。

…それにしても、このダム…なんか変だけどは思われませんか?
車も、(建設当時は)写真も無かった時代にダム、、です。
アレンデールがノーサルドラを欺く為にわざわざ巨大な建設費のかかるダム…しかも「ダムとは何ぞや」。。の時代に何故もってきたのでしょうか?
理由は、これ実話だからなんです。

1979年…ノルウェーのカウトケイノに政府はダム建設の計画を発表しました。
この地区はラップランド北部にあるサーミ人の文化の中心地だったんです。
この地にダムが出来てしまうと北から流れる河が堰き止められてしまい、下流の生態系が変わりトナカイの放牧が困難になります。
そして、サーミ人の主たる生業である鮭漁も出来なくなるんです。
サーミ人たちは暴動に発展する程の抗議を行い、当時のローマ法王に直訴までしたのですが、ノルウェー政府は、水力発電所は公共福祉の観点に基づくとの大義名分を以って1981年に着工開始、1987年には完成し、今現在もアルタ水力発電所として稼働しています。

…果たして水力発電は環境に優しいのでしょうか。。
沢山の学説がある中で何が真実か…俺自身はなかなか判断がつきかねます。
ただ、そんな中で「アンチ・ダム」といわれるムーブメントがあるのも事実です。
ダムは昔から在る水利権とも密接に絡んでいます。
国連や世界銀行と、ゼネコンの癒着も取り沙汰されています。
そして何より生態系や環境への影響です。

自然災害が起こった原因がダムにある、と「アナ雪・2」で"悪いもの、破壊されるべきもの”として描いたことは、とてもセンシティブで政治的な告発だと言えます。
 そしてそれはアナのソロ曲「The Next Right Thing」で歌われるように、先代のあやまちを認識した以上、それを踏まえて今できる次の正しい一歩を踏みだすことしか、今残された俺たちにできることはない、というメッセージそのものでもあるんですね。
塚本

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