塚本

ハウス・ジャック・ビルトの塚本のレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.8
2011年のカンヌ映画祭で『ヒトラーに共感する』発言で同映画祭の追放を喰らった我等が暴れん坊将軍、ラース・フォン・トリアー。

…一昨年、7年ぶりに出禁が解かれ新作「ハウス・ジャック・ビルド」を持って意気揚々とカンヌに参上するも、本作を観たオーディエンスの半数が途中退場…上映後はブーイングの嵐。
まぁ…いつもの…トリアー親爺にとっては"お約束”のようなものなんで、俺自身これっぽっちも気にして無かったんですよね。

…ただ…今作は、マジでやっちゃいましたな。
後戻り出来ない…言い訳のつかない作品ですよ、これ。
それは巷で色々言われてる、ゴア描写に対するモラル違反…などと言うものに対してではありません。
それならトム・シックス、イーライ・ロス…はたまた園子温のスラッシャー描写の方がよっぽど気が利いてます。

 本作のテーマはサイコパス・シリアルキラーのヤンチャっぷりを描くことにありません。
「ヘイル!シーザー」がコーエン兄弟の所信表明だったように
「ハウス・ジャック・ビルド」は紛れもなくトリアーの心情告白になっており、それがやっぱり"ヒトラーに共感する"というものだったんですね。
2011年の発言はジョークでもリップ・サービスでも、言葉の綾でもなかったんです。
親爺、マジモードで命よりも芸術が勝る、と言い切っちゃってます。
それでも、そんなイっちゃってる奴の作品はやっぱり面白いんですよね。
トリアーは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」ではビョークに、「ドックヴィル」では二コール・キッドマンに、それぞれ撮影中にパワハラ、セクハラをされた、と訴えられてます。
トリアー自身も強迫神経症でメンタルに問題を抱えています。
彼が映画を作る(女性に暴力を振るう)ことは、彼にとってのセラピーだったんです。
ジャックが外灯の下に行き着くと殺人の衝動を抑えられないように。
ジャックはトリアー監督自身なんですね。
人非人で外道な所業をしても、それによって遺る作品は永遠だと、ジャックを借りて述べているんです。
「風立ちぬ」も同じで、映画の堀越二郎は宮崎駿自身です。
堀越は何万人という兵隊を死地に向かわせるゼロ戦を作りました。
堀越は何万人の死者よりも、"美しい飛行機を作れる"アーチストとしての自分を取ったんです。
「ピラミッドの在る世界」です。
宮崎駿監督はアーチストが背負う業に自覚的だったんですね。
「ハウス〜」のクライマックスの洞窟はダンテの「神曲」に於ける煉獄です。
煉獄とは地獄と天国の間にある措置空間です。
ジャックがずっと話をしていた人はウェルギリウスという「神曲」に於ける案内人です。
ウェルギリウスはジャックにとってのイマジナリー・フレンドだったんですね。
「風立ちぬ」でもウェルギリウスが出てきます。
カプローニ伯爵です。
「風立ちぬ」のラストの平原は煉獄なんですね。
「ハウス〜」と違うのは、堀越は煉獄から菜穂子によって、地獄ではなく天国へと導かれます。
これも「神曲」に元ネタがあって、主人公を煉獄から救うベアトリーチェがモデルです。
ジャック(トリアー)には、救ってくれるべく"べアトリーチェ“は居なかったんですね。
そこら辺も自虐的で、なんともトリアーらしいです。
塚本

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