塚本

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドの塚本のレビュー・感想・評価

3.9
事前知識がどーのこのーの言ってるうちはダメですな。

タランティーノと同じ時代・世界の空気を吸って、最小限の映画的教養がある者にしか…ハッキリ言って楽しめません。
これは決定的に仕方のない事だと思う。
俺もタランティーノもリアルタイムではアメリカンニューシネマ(カウンター・カルチャー)の潮流を知っているわけではありません。
しかし、俺たちは一つ下の世代として“憧れ続けた。”
そして浴びるようにその頃の映画を観ました。
ニューシネマだけじゃありません。

テレビを通じても色んな時代のハリウッドを観て俺たちは育った。


大戦も、ベトナムも、ナチスも、冷戦も、公民権運動も、赤狩り…ダルトン・トランボの反骨、エリア・カザンの裏切り…も、マンソン・ファミリーもシャロン・テートの惨劇も…映画という文脈の中で、まだ柔らかだった感性に堆積し吸収されることで血肉になっていったんです。

懐古趣味?
おじいちゃんの昔語り?
映画オタクの独りよがり?

その通り、当たり前じゃないか。

もし…本当に楽しみたいと思うなら、もっと映画を観ろ!本を読め!知ろうと試みろ!
意味がわからんと言って、そこで投げ出すな!

。。と、ジジイの繰り言はこの辺て切り上げまして(-"-;A 。


あ、えーと…本作の最大の魅力についてですが、これはもう3人…つまりシャロン・テート、クリフ・ブース、リック・ダルトンのキャラクター造形の素晴らしさに尽きます。
ストーリーが無い、テーマが無い、というレビューが多く目に付きますが、これはそういう種類の作品じゃありません。
微細に作り込まれたキャラクターたちが、ある時代のある場所で勝って気ままに動く、そのこと自体が本作におけるテーマなんです。

夫の喜ぶ顔を想像しながら本屋でトマス・ハーディの「テス」を購入するシャロン・テート。
映画館で自分の出ている映画を観に行き、周りの観客の反応にほくそ笑むシャロン・テート。
ブルース・リーに截拳道の手ほどきを受けるシャロン・テート。
「マンソン・ファミリーに惨殺された」シャロン・テートではなく、日常を精一杯楽しんで生きているシャロン・テートが、フィクショナルな枠を超えて確かな手ごたえと共にそこに存在する事から生じる多幸感。

ディカプリオ演じるリック・ダルトンの憎めない小物感。
自分の今の立ち位置を理解しながらも、なかなか受け入れることが出来ず、次の人生のステージに移行するべく、もがき苦しむリックの悲哀。


そして俺がこの作品で一番のお気に入り、ブラット・ピットが演じたクリフ・ブース。
第二次世界大戦を経験したクリフと、戦争を知らないヒッピー世代とのギャップが楽しい。
コーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキ」での“デュード”に近いキャラだが、デュードはヒッピー崩れだから、これはロバート・アルトマンの「ロング・グッドバイ」の“マーロー”に近いかも知れません。
エリオット・グールドは、50年代の、クタクタのジャケットに細身のネクタイを締めた、迷える世代のマーローを飄々と演じていました。

今回のクリフも飄々としてはいるですが、決定的に違うのはファッションです。
「ロング・グッドバイ」のマーローが50年代のトラッドにこだわっていたのとは対照的に、クリフは50年代のカジュアルにこだわっていて、俺には凄くツボでした。



まずTシャツ。

これはチャンピオン、最後のランタグ(ランナーのロゴが入っているタグ)で、ランナーが「C」の中にスッポリ入っている「ランナーズ IN C」と呼ばれているものです。
俺はレプリカの物は持ってますが、今、デッドストックの保存状態でなら10万円はすると思います。


そしてジーンズ。

彼が履いてるのは、リーバイスの
【S501XX “大戦モデル”】だと思われます。
ブランド・アイコンであるバックポケットのアーキュエイトステッチが戦時下物資統制の対象になり省略され、代用としてステンシルペイントでステッチを描くという苦肉の対策がとられたんですが、洗濯によって消えてしまうのが難点で、クリフの履いてるリーバイスのポケットのステッチも消えております。
クリフは戦後からずっとこのモデルを履いてきたんだな、と思うと俺のニヤニヤは止まりません。

この時代のカジュアルの流行りと言えばタートルにベルボトム。
マンソン・ファミリーのアジトであるスパーン映画牧場で、ヒッピースタイルの連中に囲まれながら、1人50年代カジュアルで男気を見せるシーン…震えるくらいカッコいい。
塚本

塚本