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ロング,ロングバケーションのpanpieのレビュー・感想・評価

4.3
自分が若かった頃親が老いていく事など考えもしなかった。
自分もいい年になってきて初めて親がとても年を取っている事に気付く。
さて、どうしたものかと…
親が存命だと親を施設に入れるか自分の家に連れてきて一緒に住むか二者択一で考えがちである。
自分が親の立場になって考えた事はあるだろうか。
正直あまりなかった。
それが病気なら尚更で親の立場になったら自分抜きで子供と掛かり付け医で自分の意見は無視され勝手に決められた事になる。
自分のこれから先の短い大切な時間を自分抜きで決められるなんてふざけるな!と思う事だろう。
そんな事を突きつけられ親の立場で親の気持ちで語られる今作に立場の違いを突き付けられ目からウロコの方が多かった事だろう。
親をみる側の私位の世代の方や多くは私より一回り以上上の親世代の方が映画館に詰めかけて平均年齢高めの満員状態で鑑賞した。笑
映画館は熱気と笑いに包まれた。



エラとジョンのスペンサー夫妻はある朝早く愛車に乗って旅に出た。
エラは末期ガンで余命幾ばくもなくジョンはアルツハイマー進行中で息子ウィルが迎えに来て母を病院へ父を自分が引き取る手筈になっていた。
早朝にもかかわらず実家がもぬけの殻と分かりウィルは慌ててエラの携帯にかけるが電源が切られておりかからない。
慌てふためくウィルと裏腹に愛車のキャンピングカーでエラとジョンの夫婦水入らずの旅が始まる。



もうヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドが本当に素晴らしかった!
ヘミングウェイに深く傾倒する元教師だったジョンを演じたサザーランドがアルツハイマーに侵され息子を忘れ時には最愛の妻エラを忘れだけどエラの元恋人は覚えているとなんとも可笑しく切ない演技に圧倒される。
「おい起きろ!あんた誰だ?」
妻を忘れ銃を向ける夫に起こされヒヤッとさせられるがこんな事一日に何度も繰り返されてエラのキレた口調が爆笑を誘う。

時折雲が晴れた様に最愛の夫が帰って来る時があってサザーランドが顔つきも変わって素敵なおじ様に変身する。
でも愛すべき夫は短い時間で去ってしまいそれを嘆く妻。

元は他人と人生50年連れ添うって凄いな!
長い人生色々あるんだから夫婦だって色々あるはず。
アルツハイマーが進行している体は元気な夫を面倒を見ないといけないのにそれを面倒見なければいけない筈の自分は末期ガンでいつ死んでもおかしくないなんて設定だからこそ二人で最期のバケーションに出る気持ちもよく分かる。
アルツハイマーの人が運転できるのかは疑問だけどそんなちっちゃい事は言いっこなし!
案外昔の事は覚えていたりするらしいから出来るのかもしれないな。
でもなぁ病気だからとは言えトランクスをはけと強要する妻から昔の恋人がトランクスを履いているかを確かめたいって凄い信念だな。笑
何十年前の話なのさ!笑
息子の顔は忘れちゃうのにそんな事は忘れないなんて。
笑っちゃうけど人間の業の深さを感じた。

このトランクスで思い出した事がある。
私事ですが今でこそそんな事はないのだけど結婚して間もなくの頃夫の靴下がいつも白だった事に気付いて白の靴下なんて学生か!と思っていたし私のワードローブの中にはベージュはあっても白はないのでだっせー!と記憶に残っていた。
ある日それを夫に言ったら逆に黒とか紺の方がおじさんぽいと思っていたらしく(笑)女性目線の話をしたら驚いていたっけ。
ちょっと違うけどこだわりのブリーフの話でこだわりの白靴下の話を思い出したよ。笑
懐かしい。

隣に住んでる妻の友達との何年にも渡って続いていた不倫を病気のせいで何気なく告白されて動揺するエラの気持ちが痛い程分かってあの行動もジョンに浴びせる罵詈雑言にも理解できる。
あんな仕打ちをしても警察沙汰にしない施設の人や迎えに行った時の無邪気に飛び出す絵本をエラに見せ楽しそうに話して聞かせるジョンの姿に涙が出た。
あとヘミングウェイを愛してやまない夫が大好きな一節が今まで忘れた事なんかなかったのにとうとう思い出せなくなった所にも涙が溢れた。
どちらも辛い病気だがやはりアルツハイマーになる事だけは嫌だと思った。
自分は最後まで自分でいたいしジョンも最後までヘミングウェイを愛する自分でいたかった事だろう。
ラストはとても悲しくて激しく泣いたけどエラのとった行動は夫を残して先立つ妻の立場として凄く共感してしまった。
整備不良のキャンピングカーがこんな形で使われるとは夢にも思わなかったし子供達に最期の手紙を書きエラがカツラを被って口紅をする姿に涙が溢れた。
ジョンにも眼鏡を掛けさせる所も。

カツラと言えばジョンにガソリンスタンドに置いていかれたエラが気のいいバイク乗りのいかつい兄さんのバイクに乗ってキャンピングカーを追いかけるシーンは笑った。
カツラが落ちない様に抑える所が自然だし皆爆笑していた。
エラを見つけたジョンが「なんでバイクに乗っている?」と聞くのもおいおい!置いていったのはあんただよ!と笑ったけどアルツハイマーにおいては日常会話がずっとこんな感じなんだろうな。
会話のキャッチボールは望めないんだ。
家で専らお喋り担当な私は自分の状況がこうだったら辛いだろうなとエラに同情した。
自分がなっても嫌だけど伴侶がなっても辛いな。
お互い治る見込みもなくこの旅行に賭けていたエラはもしかしたら初めから覚悟を決めていたのかもしれないと思った。

名優二人の素晴らしい演技ありきのこの二人でなければこの作品は成り立たなかったかもしれない。
ヘレン・ミレンのこんな役は初めて見たがとても共感できたし素敵だった。
コメディもできるんですね!なんて愚の骨頂だった。
最近の二人を見ていなかった為かとても二人とも歳をとった感じがして驚いたし何故か悲しかった。
名優には長生きをしててもらって名優にしか演じられない名演技をまた観たい。

パオロ・ヴィルズィ監督作は初めてだったが違う視点で考えさせていただいてありがとうと感謝したし老いの問題は万国共通なんだなと思った。
こんな親の立場で描く映画があってもいいと思った。
違う視点で考えさせてくれた。
歳を取るのも悪くないな。
辛い事もあるけどそれを笑い飛ばしてたくましく生きていくエラの姿に勇気をもらった。
私の両親はどうしたいのかな。
まだまだ病気ではないし元気なんだけど優しい気持ちになってそんな事を突っ込んで話をしたいなと思った。
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