うえびん

女は二度決断するのうえびんのレビュー・感想・評価

女は二度決断する(2017年製作の映画)
3.7
二度目の決断
そっか、そっちの決断か…

2017年 ドイツ作品
原題:Aus dem Nichts(どこからともなく)

主人公カティヤ役のダイアン・クルーガーの演技がよい。突然の事件で最愛の家族を喪った哀しみ、裁判を通じて徐々に心が回復していく様子、裁判の結果が出た後の覚悟、表情で揺れ動く複雑な心境を見事に演じ分けられていたのが印象に残る。夫のヌーリはどうして服役していたのか、カティヤが夫の職場から出た後に出会った女性にどうして一言かけたのか、ヌーリの撮ったビデオにカティヤが息子のラジコンを直す場面がどうしてあったのか、前半に仕掛けられた伏線が次々と回収されてゆくストーリーがよかった。

カティヤの複雑で繊細な心境が丁寧に描写されていたので、窓に滴る雨の雫の影がカティヤの顔にかかる映像や、カティヤの思い余った風呂場での行動の映像、裁判での被害者の死亡原因の説明は少し強すぎて逆にここまでやらなくてもいいのにと思った。それから、血が何かのメタファーとして描かれているのが印象的だった。鼻血、事件現場に残った夫と息子の血、入れ墨を掘る際の血、止まっていた生理が戻った際の出血…。カテイヤの二度目の決断に、血が彼女に何らかのメッセージを送ったように感じられた。

ドイツでは、2011年に「国家社会主義地下組織(NSU)」を名乗るグループが2000~2007年の間にトルコ系移民8人、ギリシャ人店員1人、女性警官1人の計10人を殺害していた事件が明るみになった。この事件が本作のモチーフになっている。加害者は、NSUメンバー3人のうち男2人は同月中に自殺し、1人残った女性メンバー被告が自首したという。

単なるサスペンスドラマにとどまらず、ドイツ社会の影、根深い人種差別やネオナチの台頭などの問題も考えさせられる作品でした。
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